第58話 夢



 一人の少女が母に抱かれて眠っている。


少女は起きている。


眠っていると言うよりも

甘えているだけのよう。


目を開いて母を見ている。


母の寝室の扉を叩く音がする。


その優しい音色に

「父だ」

と少女は目を光らせる。


母が

「どうぞ」

と声を掛けると

そっと扉が開き

父が扉を開けて顔を覗かせる。


「また、母さんのベッドに潜り込んでいたのかい、いつまで経っても・・・。」


と父が言うと

満面の笑みを浮かべて

そっと部屋の中へ入ってくる。


思わず少女はベッドから跳ね起きて

父の懐に飛び込もうとするが

何故か父は滑るように遠ざかっていく。


少女はすがるようにして父を追いかけるが

父は扉を越えて廊下まで出ていく

少女は長い廊下を走って追いかけるが

追いつけない。


「パステルナーク、父も母も死んではいない、ずっと傍にいる。愛している」


その声を聞いて

少女は大声で泣き喚きそうになった時

目が覚める。

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