第57話 敬意の礼



 暫くは音のない静寂が広間を覆った。


そこへ床に降りたつ

小さな蹄の音が聞こえる


子鹿マヤコフは凄まじいまでの爆発の中

しっかりとポーの妖刀を抑え続けていた。


エリオットが煙の中

マヤコフへと走る。


「マヤコフ」


エリオットの声は聞こえるが

煙の中で何をしているのかは見えない。


爆煙の中で

エリオットは涙を流しながら

マヤコフを抱き締めていた。


「良くやった。然し、お前は、未だ、子供なのだ。もう、危険な真似はするな」


マヤコフもエリオットの髪を舐めている。


その時

大きな音を立てて何かが落ちる音がした。


王の間の小さな明り取りの窓が爆煙を外へと吐き出し

少しづつ薄くなっていく煙の中で

ポーの姿が見え始める。


ロルカは両手を翳して

破岩術の構えをする。


然し

ポーの身体に頭が乗っていない。


あの大きな音は

ポーの首が身体から離れ

床に落ちた音。


パステルナークは

見事にポーの首を討ち取っていた。


然し


そう思うロルカの前でポーがゆっくりと静かに床へと傾いていく。


最後に大きな音を立てて床に倒れると

その向こうに美しい女が立っている。


両手には

男であろう首と女らしい首が抱えられている。


首は無惨にも腐り始めているようで誰の顔かも分からなくなっている。


然しながらも

男の頭には金属でできていたからであろう

見事な王冠が腐りもせず髪に引っかかっている。


そして透き通るような白い肌をした顔の女が

燃えるような赤い唇で小さく呟く。


「我が父と母は、既に死んでいた」


そう言うと

純白の服の腰の部分を

ポーと両親の混ざり合った血で

風の者達が着る戦闘用の衣服を赤く染めた女は

どさりと床に落ちるように倒れた。


「パステルナーク様」


そう叫んでエリオットが走り寄る。


「パステルナーク、両親を殺された・・・姫。」


ロルカは言いながら

がくりと腰と膝が折れ

やっとの思いで姿勢を正し

片膝と片手を床につけて

胸にもう片方の手を当てて礼をした。

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