第56話 抜刀



 ロルカはポーと対峙する。


ポー

今度は三の太刀を入れようとしている。


「四の太刀はない、これが最後だ」


とポーは言う。


ロルカは未だ剣を抜けずにいる。


いや、ロルカ自身もパステルナークの思いが分かる。


分かるだけに無理に抜刀できない。


そこへ間髪入れずにエリオットの念動力を込めたクノーがポーに放たれる。


「聞こえぬのか、ロルカ、抜け」


爆炎を上げながらもポーは身動きせず

ロルカに満身の一撃を入れようとしている。



破邪の剣も持つ者が居なくなれば

剣は裸も同然

そして我が物となる。


ポーはそう見込んでいる。


爆煙の中

ポーの妖刀が真っ直ぐにロルカを目掛けて飛び込んでくる。


「間に合わぬ」


エリオットは声に出せずに心で叫ぶ。


ロルカとて同じ思い

一瞬目の前が白くなり何も見えなくなる

自分が死ねばパステルナークはどうなるのか?

残存した念が自分に問う。


然し


空中では

しっかりとその大きな妖刀を受け止めた小鹿が

小さなツノから白い光を放ち静止している。


「マヤコフ」


とエリオットが叫ぶ。


「ロルカ、今よ」


とベルレーヌの声が脳に届く。


抜刀できないロルカは床を蹴り

ふところからいびつな形をしたクノー

エリオットがロルカを守る為に

階段での戦いで投げた一本の

妖魔を爆裂させたクノーを取り出し

ポーを目掛けて投げる。


ロルカの念動力で瞬間移動を遂げて放たれたクノーは

ポーの一つしかない目を貫く。


この時を選んだかのような瞬間移動で放たれたクノー

エリオットのように爆裂させることはできないが

的確にポーの目を貫いた。


妖刀を持っていない方の手で

ポーは堪らず目を押さえる。


そこへ同時に

エリオットとロルカの破岩術が炸裂する。


ポーの身体から爆炎が上がるが

効かぬ。


それでも諦めず

二人は破岩の波動を放ち続ける。


今や広間は放たれた破岩術の爆煙で何も見えない。


それでも二人は念通力でポーの位置を探り

術の波動を放ち続けている。


破岩の爆音と共に別の声が聞こえた。


「父よ・・・。母よ・・・」


囁くように聞こえた言葉が狼の咆哮のような大声に変わる。



「愛しています」


その声にロルカが反応する。


「パステルナーク」


ロルカが帯刀している鞘から

破邪の剣が自ら飛び出す。


まるで舞踏を踊っているように

宙を舞いながら


美しく弧を描きながら

剣が煙の中に消えていく。

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