第55話 何も効かぬ



「ベルレーヌ」


 銀色の光が砕け散った直後

エリオットは片手を床に着けて

足首を掴んでいた妖魔を爆裂させている。


床から妖魔の血飛沫が舞い上がり

エリオットを赤く染める。


そして目の前では 

残った一本の光るツノを持った鹿が

頭を低くして片方の前脚で床を蹴っている。


鹿の臨戦体制である。


「エリオット、乗って」


ベルレーヌが念通力で話しかける。


エリオットは

もう一度床を蹴ってベルレーヌに飛び乗る。


ベルレーヌはエリオットが背に乗ったことを確かめると

ポーに向かって走り出す。


ポーはロルカから目を離し

白い鹿を正面から迎え入れようとする。


充分に加速した鹿が後脚で床を蹴り

まるで翼が生えているかのように空中に舞い上がる。


その鹿の背を蹴りさらにエリオットがポーへと飛ぶ。


宙でエリオットのクノーが何本も放たれる。


ポーの胸に何本ものクノーが縦一文字に突き刺さる。


ポーは鹿とエリオットの瞬間移動でもしているような速さに

直ぐには反応できていない。


しかし


「まだ、そのような金具が私に効くとでも思っていたのか」


とポーはエリオット目掛けて動き出す。


ポーの胸が爆発する。


エリオット独自の念動力を込めたクノーだ。


爆炎の中からポーの動きが見える。


爆炎の煙

血飛沫ではない。


宙から舞い降りるエリオットをベルレーヌが素早く受け止め背に乗せる。


乗せると同時に弧を描くように鹿は疾走する。


互いに念動力に大きな差がない限り

瞬間移動は力の消耗になるだけ

それは敵も知っている。


爆炎の煙が薄まり

ポーの姿が見えてくる。


胸には僅かにクノーが刺さった跡が見えるだけ。


「新しい技を身につけたようだが、効かぬわ」


ポーは言い放つと再びロルカに目を向ける。


「パステルナーク、私を斬ってみよ」

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