第35話 時を待つ意味



 ロルカはパステルナークを抱いて寝ている。


帯刀を解いても剣はいつも自分のそばに置いている。



既に焚き火の上に吊るされた器は取り外され

ロルカによってパステルナークに切られた切り株の上に置かれている。


ロルカが食べやすいように冷ましてあるのだが

肝心のロルカは目を覚ます様子もない。


パステルナークも眠ったように静かにしている。


エリオットは焚き火の炎を絶やさぬように

時々焚き火の周りで乾燥させておいた生木を火の中に入れている。


そしてロルカの方を見ては


「パステルナーク様を抱いて眠るとは・・・、許せぬ」


などと独り言を言っている。


その時

雄鹿のコクトーが首を起こして

周りを気にしながら耳を何度も振るわせる。


「結界が気付かれた。奴等は結界を破って忍び込んで来る」


パステルナークが言う。


「夜襲か」


と自分に聞かせるようにエリオットが言い

ロルカに声を掛ける。


「ロルカ、起きろ」


白い二頭の鹿は既に四本の足で立っている。


「ロルカ、起きるのだ」


このままでは、エリオット一人で戦わなければならないのは当然のことながら

それよりも

なんとかロルカを起こして自分の力で逃げ延びて欲しいと思う。


然し魔の手に容赦はない。


焚き火の炎に照らされて、土から煙のように手が見えたかと思うと、妖魔が姿を現した。


「起きろ、ロルカ」


「アンシンセヨ、ケガニンハ、イツデモ、コロセル」


「貴様 ショウコウ」


「オマエカ、シニゾコナイ、ワガコ、キュウキ、コロシタノハ」


「それがどうした、奴が最後に言った言葉を教えてやろうか」


「ナニ?」


「お前の息子として生まれたが故に、いつも死にたかった、殺してくれてありがとう、だ」


「オマエ、コロス!」


そう言うとショウコウが牙を剥いて襲い掛かってきた。


手には剣のようなものを持っている。


エリオットは瞬時に飛び退き、


「ロルカ、このままでは殺されるぞ」


と声を掛けるがロルカは目覚めそうもない。


それに気付いたのかショウコウが言う。


「コノオトコ、イカシテオイタホウガヨイ、カナ」


「ロルカに触れてみよ、ただ葬り去るだけでは許さぬぞ」


そう言いながらエリオットは満身の力を込めてクノーを放つ。


「オモシロイ、ドウスルノカ、オシエテモラオウ」


クノーをかわすと

妖刀を振り回してはエリオットに斬り掛かっていたショウコウであるが

後退りロルカの横に立つ。


「ナァ、オシエテクレ、コイツニ、フレルト、ドウナル、ノダ?」


「そこから離れよ、化け物奴が」


そう言いながらもエリオットはクノーを何本も矢継ぎ早に放つ。


然し

ショウコウは器用に妖刀で捌き、全てのクノーを弾き飛ばしている。


エリオットは片手を翳して

破岩術を使おうとするがパステルナークは耐えれても

今のロルカに爆裂の衝撃波は耐えられないであろうと思い

翳した手を下ろし更にクノーを放つ。


「ヒッ、ヒッ、ヒッ、ハガンノジュツ、ツカエマイ」

そして間を置いて

「コイツ、チョット、アソンデヤル」


そう言いながらロルカの片腕に牙を突き刺そうとした時


「キサマ、イツノマニ」


ロルカの抱いていた剣がショウコウの胸の中心を貫いている。


「この騒がしい中、眠れる訳がないだろう? ただ静かに此の時を待っていただけだ」


言い終わるとロルカは破邪の剣を抜き、だらりと腕を下ろした。


妖魔はそれ以上喋れずにそのままドサリと地面に倒れる。


エリオットはロルカに近づき


「貴様、起きていたなら加勢くらいしたらどうだ」


と言ったが、ロルカは反応しない。


また深い眠りに落ちていったようだ。


その姿を見てエリオットは鋭い目をしながらも笑いながら言う


「今夜だけは、許してやる」

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