第34話 時



 夕刻にエリオットがコクトーとベルレーヌを連れて帰って来た。


「エリオット、世話を掛ける」


とパステルナークが声を掛けると


「いいえ、パステルナーク様」


とエリオットが答える。


ロルカは再び眠りに落ちている。


エリオットは鹿から降りると

薪に火を入れ始める。


充分に焚き火に炎が上がると

薬草のボードとレールの肉を入れる。


煙と共に

優しく甘いボードの香りが辺りに漂う。


その薬草の香りに混じってテーゲで燻じられた肉の香りが

五感を研ぎ澄ます。


「ロルカは如何でしょう?」


とエリオットが尋ねると


「大丈夫だ。時を気にしていたようだが」


とパステルナークが答える。


確かに時間がない。


然し時を気にしていては

この戦、勝てぬ。

それをこの二人は知っている。


妖魔が王都を目指して一同揃って岩山から降りて来た時

元は風の者であったアラゴンの念通力で全ての風の者達に広まったが

あまりに突然のことであったため準備は不十分であった。


風の者達は満身創痍の状態で戦わざるを得なかった。


傷を癒している暇など無かった。


いや、何処かに潜み

傷を癒しながら起死回生の時を待っていたならば果たして・・・勝てたか。


数体の妖魔であれば風の者一人でも葬り去ることは可能であったであろう。


この時だけは一人で数十体の妖魔を相手にしなければならなかった。


岩山の王ポーと名乗る妖魔

何処から来たのか

何の為に王都を直接的に狙って来たのか

その為に妖魔全てを王都へ


今のエリオットは

その理由よりも

奴らが一同にやってくる前の優しかった父と母の変わり果てた鬼の姿

そして一人づつ亡くなっていった風の者達の苦しみの顔


そんな事を思い出している。


時は無い

然し、今、行動すれば時を失う

失われた時は二度と戻らない。

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