第32話 傷
「ロルカ、何を驚いている」
「いや、そういう念動力の使い方もあるのかと」
「ふっ、この生木だ。どうせお前も念動力で火を付けたのであろう」
エリオットには敵わない
とロルカは苦笑する。
エリオットが器に水を入れている間に
ロルカは地面に置かれた山積みの草を見る。
「これか? これは、ボードという薬草だ。疲労回復に良い。そして鹿達の好物でもある」
そう言ってエリオットは器の中にボードの葉をちぎって入れ
そこへアラゴンからもらったレールの燻製肉を入れる。
器を火にかけると、残りのボードの葉を全て鹿の前に置き、
「ロルカ、服を脱げ」
と言う。
ロルカは言われた通りに服を脱ぐ
脱いだ服を改めて見ると、そこには数筋かの新たな裂け目ができていた
裂け目の下には同じ数だけの切り傷が見える。
エリオットは懐から別の薬草を出して
よく揉んでからロルカの背側に回り
傷口に薬草を摺り込んでやる。
「胸の傷は、自分でやれ」
そう言うとエリオットは元の位置に戻り
焚き火の向こうで器の中をゆっくりと掻き回す。
ロルカは
そんなエリオットを見て
全身にかすり傷ひとつ無い事に再び驚く。
エリオットは焚き火の向こうで器の中の肉と薬草を混ぜ合わせながら
驚いた顔をしているロルカには目も合わせずに小さな声で言う、
「どうした、痛むのか」
「いや、大丈夫だ」
そう言うとロルカは再び薬草を胸の傷に塗り始めた。
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