第26話 鹿の念通力
向こうに見えていた森が
一本一本の木が見えるまでに近づいて来た。
「マヤコフはいつまで付いて来るのであろう」
ロルカは何とは無しに口にする。
その時
優しい矢のような何かがロルカとエリオット
そしてパステルナークの耳の上の蝶形骨の辺りを右から左へ
或いは左から右へと通り抜けて行った。
「マヤコフ、帰りなさい」
優しい声だ
振り返るとベルレーヌが立ち止まっている。
牝鹿の念通力である。
そして牝鹿は前を向いたまま歩き始める。
子鹿のマヤコフは立ち止まったまま
付いては来ない。
鹿の上に乗った二人もベルレーヌと同じように
前を向いたまま振り返らない。
人を乗せた白い鹿が
森の中へ続く細い道へと進んでいく。
その姿を子鹿が身動きもせず見つめている。
「ベルレーヌ」
これも直接脳に語りかけるような声だ。
「私達の力では、あの子を守りきれない」
コクトーの念通力にベルレーヌが答える。
暫くして森の外では
ほんの数本に枝分かれしたばかりの小さなツノを持つ子鹿が
くるくると輪を描くように歩いていたが
やがて
とぼとぼと牧場に向かって歩き出す。
そして
歩き出したかと思うと一気に駆け抜けていく。
朝の眩しい光が
小さな鹿の瞳にキラキラと揺れている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます