第25話 共に帰れ



 三頭の白い鹿がひと組になって歩いている。


雄鹿のコクトーに乗った若い騎士は立派な身なりだが

既に親衛隊隊長の服から装飾品は剥がれ落ち

所々に裂け目が見えている

騎士よりも風の者と言った方が似合っている

片手で立派に枝分かれしている鹿のツノを持って揺られている。


もう一人の若い娘は

時折小さな鹿を見下ろしては前を見る

牝鹿のベルレーヌは真っ直ぐに前を見たまま首を動かさない。


子鹿のマヤコフは

ほとんど前を見ずに歩いている

エリオットとベルレーヌを交互に眺めては

ベルレーヌに身体を擦り寄せたり

エリオットの脚を舐めたりしている。


そんな三頭の鹿の後ろ姿を眺めながら

中年を越えたであろう髭だらけの男が

牧場の門の前で立っている。


「きっと無事に帰って来てくれよ」


と呟く。


「どうしてマヤコフまで付いて行っちゃうの?」


とアラゴンの後ろで

いつの間に起きたのやら

寝ぼけ眼の少年が呟く。

少年とマヤコフは一緒に成長してきたようなもの

と言うよりも少年をマヤコフが育てた

と言った方が正しいのかもしれない。


「一緒に帰って来るためさ」


とアラゴンは少年を諭すというよりも、自分自身を諭すように言う。


先を行く鹿も人も振り返らない

荒野の道を森へ向かって歩いて行く

森を抜ければ王都だ。

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