第21話 白い鹿



アラゴンは王立校の職場を引退し、今は自ら鹿を育てている。


鹿は真白な毛を持ち、二本のツノは生い茂った木の枝のように何本にも分かれている。


この白い鹿達は、念通力を持っている。


合図をしなくとも心で思うだけで鹿は走ったり止まったりしてくれる。


然し其れも念通力を持った者にしかできない所作ではあるが。


ホイット少年は、王立校から実習に来ている。というよりも妖魔の手から逃れるための疎開のようなものである。


ここでは、アラゴンの力と白い鹿の力で、なんとか妖術から逃れられている。

時間の問題ではあるが・・・。


ホイット・マン少年は、マン家の継承者で両親は王の側近である。


マン家は代々王家に使え、祭りごとの役目を担う家系である。

念の力は持っていない。


風の村を出た時のアラゴンは、風の者として働いていたが、その鋭い探索力が買われ、王立校に進み知識者としての評の方が高い。


アラゴンはその深い見識を持って、引退後は白い鹿を育て、今まで風の者を乗せるための鹿を風の村へと送っていた。

今は、風の村に人は住んでいない。


そして今、アラゴンは念通力を使って、この牧場で育てている十数頭の鹿達と語り合っている。


その時、別の念がアラゴンの胸の中に入って来た。


「とうとうやって来たか」


アラゴンは、そう呟くと髭を蓄えた大きな口を少し開けて笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る