第18話 動くから風と言う



今3人は、最初に来た場所の大きな岩の前に立っている。


「ロルカ、約束の時が来た」


エリオットがそう言うとロルカは眼前の岩に手をかざす。

両手は岩を掴むように握られた。


人の10倍以上もある岩が震え出す。


ロルカが静かに両手を上げていくと岩は大地から抜き取られ宙に浮かんでいく。


次に軽く握られた拳を開くと岩は破裂するはずであった。が、ロルカはその状態から大きく両手を振り上げた。


岩は遥か空高く舞い上がった。


「ロルカ、何を考えているのだ」


エリオットが歯噛みしながら言う。


ロルカはまるで聞こえていないように、最初の日に登ってきた崖の道に身体の向きを変えて、そこから尚も大きな岩を選び崖の道の横に、両手を差し伸べて移動させる。


エリオットは上空を見る。

その間に空中で失速した岩は3人目がけて落ち初めていた。


空を見つめるエリオットの顔に翳りが見れる。

今や空から落ちて来る大きな岩は充分に加速して速度は最高点に至っている。


ロルカは両手を空に翳すが、岩の速度に大きな変化は見られない。


ロルカの額から汗が一筋流れる。


エリオットは、それを見て自分の両手を空へ翳そうとする。


「手を出すな」


ロルカは叫んでエリオットを静止させようとする。


岩の速度は徐々に弱まっているようではあるが、最早ロルカの力では静止できるような速さではない。


エリオットはロルカの側へ近づいた。


いざとなれば、ロルカとパステルナークを携えて瞬間移動するつもりだ。


その時パステルナークが声を出す。


「エリオット、心配無用だ」


まさにその瞬間、3人の頭上に岩が迫った。


ロルカの両手が移動させた別の岩へと物を投げるように動いた。


すると頭上から落ちて来ていた岩は、ロルカによって崖の道の横に設置された岩へと方向を変えて飛んで行く。


岩の空中での急速移動で出来た風がロルカとエリオットの髪をなびかせる。


そして次に岩と岩がぶつかる大きな音。


二つの大きな岩は互いに踊るようにして転げ落ちていく。


やっとロルカの握られた拳が勢いよく開く。


二つの岩が爆裂したように粉砕される。


そして、

崖の前に立つ3人の前に、二つの人工の崖崩れの跡が残った。

3人は眼下の二つの崖崩れを見下ろしている。


「ロルカ、今度このような真似をしたら、私がお前を爆裂させてやる」


とエリオットが言うと


「ロルカ、約束は成就された」


とパステルナークが言う。


それに答えるようにエリオットは呆れたように、軽く、2、3度頷いてみせる。


エリオットの頷く様を見たかのように、再びパステルナークが言う。


「下山だ」


風は動き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る