第17話 実戦



エリオットは静かに笑い頷くと

音も無く消えた。


刹那、ロルカ目掛けて三本のクノーが放たれた。

実戦は既に始まっていた。


ロルカもまた音もなく消え去りクノーをかわした。

三本のクノーはロルカが立っていた後ろの木に縦に並んで突き刺さったかと思うと、大木は二つに裂け大きな音と共に倒れた。


ロルカは念動力を使って走った。

既に二人の動きは人では見ることが出来ない。


ロルカの右耳で

「遅いぞ、ロルカ」

とエリオットの声が聞こえて来たかと思うと、


「何をしているのだ」

と左の方で声がする。


背後から追いかけられているのか?とロルカは思うが、前後左右にも居るように思える。

まるでエリオットが何人もいるような錯覚に陥る。


咄嗟にロルカは大地を蹴り宙へ飛んだ。

右にも左にも居ない。

前でも後ろでも無い。

上だ。


ロルカが空中で停止した時、エリオットが姿を現した。空気の銀幕に映像を見たような現れ方だ。


「まだまだ、だな」


と言ってエリオットが笑う

左手の中にはクノーが仕込まれている

振り上げて投げようとは思っていない

両手をだらりと下げた状態から、瞬時に下手から投げるつもりだ

この間合いからなら致命傷どころか絶命しかない

もちろんエリオットも放つつもりは無い

その動作で修行の未熟さを悟らせるつもりでしかない。


エリオットの左手がまさに動こうとした瞬間・・・。

エリオットの手が動かない。


既に背後に回ったロルカが左手を押さえている。


「何が、まだまだ、なのかな?」


「そういう所がだ」


そう言い放つとエリオットは空中で両足を持ち上げて、腰が水平以上に浮いた時、ロルカはエリオットの両足が正面目がけて前蹴りのように向かってくるのが見えた

一連の動作は1秒の半分もかかっていない。


「何んだ?」


エリオットの両足がロルカの両肩に軽く触れたかと思うと、ロルカは全身に激しい痛みを感じ、まるで雷に撃たれたかのように身体は炎に包まれ、勢いよく眼下の地面に向かって落ちて行った。

そして、ロルカの身体が地面にぶつかったかと思うと、地響きと共に土煙が舞い上がった。


「しまった、やりすぎた」


エリオットはその言葉を口から漏らすと、自身も勢いよく地面に向かって頭から降りた。


着地後、ロルカの身体の真横に立ち、エリオットはしゃがみ込んでロルカの様子を確かめようとしたその時、エリオットの眼が見開いた。


「なんだと?」


ロルカの身体は地面スレスレで浮いていた。

念動力で物を動かすのではなく、念動力を利用してクッションを作っていたのだ。


そして更に、空中で左手を掴まれた時と同じように、エリオットは左足に何かが触れるのを感じた。しっかりとエリオットの足首をロルカの手が握りしめている。


「エリオット、何をやりすぎたのだ?」


そう言うと僅かに宙に浮いていたロルカの身体は静かに地面に落ち、エリオットの足首を掴んでいた手の力が抜け、その腕も地面にだらりと落ちた。


「良いだろう、合格だ」


うつ伏せに倒れて既に意識を失っているロルカに、エリオットは優しい目で微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る