第16話  効能



病に臥せって数日後の朝から、ロルカは修行に励んだ。


さらに数日後から、エリオットからの修行は激しさを増して行った。


しかし、どういう訳か、あの日の朝からロルカの心の迷いは既に消えている。

夢に出て来た二匹の悪鬼、その額に突き刺さった二本のクノー。

ロルカは思う。

我が父と母も心を妖魔に奪われていたのか?

そして二本のクノー。


修行は過酷さを増していくが、爽やか? 他に言葉があるなら、ただ真っ直ぐに走っているとだけしか例えようが無い。

それはエリオットも感じている所だ。

風の者としての師弟関係のようなものだろうか。

そして、今。


ロルカを目掛けて石の礫が飛んで来る。


音も無く、数個の石がロルカを正確に捉えて飛んでくる。

いや、音は石が飛んで来た後から聞こえてくる。

飛んでくる石の速さは、音の伝わる速度を超えていた。


ロルカは、その石を最小限の動きでかわす。


さらに次の礫が飛んで来る。

石はどこから飛んで来るかは分からない。

念動力で飛び回るエリオットの動きもまた音の速さを越えている。

目で確かめることは不可能である。


次の瞬間、ロルカは身構える。

目の前に、エリオットの姿が現れる。


「私が目の前に現れることを感じたか。念通力の使い方が上達したな、それとも風を読んだか」


「風を読んでいたのは私が騎士であった時のもの、今は風の者として念通力で動きを読んでいる」


「ふっ、面白い。では、次はこれを受けてみよ」


そう言うとエリオットは懐からクノーを取り出した。


「実戦、と言うことか」


ロルカの言葉を聞いて、エリオットは静かに笑い頷く。

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