第14話

 どれぐらいそうしてたのか。

 




 

 完全に怪しい人物になりつつある気がして、俺はさくらの木から離れた。

 

 

 

 

 

 痛い。

 

 

 胸の奥が、ぎゅって、なる。

 

 

 離れたくない。何で。

 

 

 木、なのに、こんな。

 

 

 

 

 

 固い樹に触れる。

 

 

 

 

 

 符合しそうな何か。

 


 でも、符号しない、何か。

 

 

 

 

 

 風が揺れる。

 

 

 葉が揺れる。

 

 

 俺の心も。

 

 

 

 

 

 ………揺れる。

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

 ふいに後ろから声をかけられて、俺は慌ててさくらの木から手を離して一歩下がった。

 

 

 

 

 

 不審者扱いは困る。

 

 

 

 

 

 焦って振り向いて、すみませんって言おうとして、その声の主を見て。

 

 

 

 

 

 な、に。

 

 

 

 

 

 どくん。

 

 

 どくん。

 

 

 どくん。

 

 

 

 

 

 時が、止まる。

 

 

 

 

 

 吹いていた風が止まる。

 

 

 聞こえていた音が止まる。

 

 

 すべてが止まる。その人だけになる。

 

 

 

 

 

 俺は、その人を。

 

 

 その人は、俺を。

 

 

 

 

 

 呆然と。お互いに、呆然と。見た。見てた。

 

 

 

 

 

 目を見張って、何かを。記憶の奥からたぐり寄せるように、見つめて。

 

 

 見つめて。

 

 

 

 

 

 ………見つめあった。

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