第13話
写真のさくらはじいちゃんの家の近くの木。
何でかそれは分かって、俺はオルゴールと財布とスマホを持って家を飛び出した。
行ってどうするんだ?
そう思ってみても、足は止まらない。
駅まで走る。
じいちゃんの家まで電車で30分。
ちょうど来ていた電車に飛び乗って、俺は向かった。
写真にあった、何かが符合しそうな、さくらの木の元へ。
真っ直ぐ行けば、じいちゃんの家。
でも、その手前の角を、曲がった。
何故かドキドキする、俺。
手にはオルゴール。
持って来た方がいいような、そんな気がして。
ここ、俺、すごい通った?
何回も来た?
何年も前から?
符合しそうな何か。
でも、符号しない、何か。
痛い。
胸の奥が、ぎゅって。
そして、あった。やっぱりあった。ここだった。
これ。
これだろ?
さくらの木。
緑の葉っぱが太陽に輝くさくらの木。
俺は、無意識のうちにそのさくらの木に抱きついていた。
何、してんの、俺。
端から見たら変なやつじゃん。
こんな、人の家のさくらの木に。
何で、俺、こんなことしてるの。
そう思いながらも、俺はさくらの木の樹を撫でて、その樹にそっとキスをした。
何で。
ぎゅって痛い。胸が痛い。
ただ痛い。
痛くて痛くて痛くて。
涙が、出る。
何で。
俺、おかしいやつじゃん。
分かんない。
分かんないけど、離れたくない。
行かないで。お願い、ここに居て。俺の側に、ずっと。
俺は誰にそう思ったの。
『すき』
俺は誰にそう言われて。
『好きだよ』
俺は誰にそう言ったの。
さくらの木?
なんて、そんなこと。
そんな馬鹿なこと、あるはずないのに。
俺はそこから動けずに、さくらの木をずっと抱き締めていた。
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