第12話

 あれ?これ、何だっけ。

 

 

 

 

 

 季節は初夏。

 

 

 緑が眩しい爽やかな毎日。

 


 春休み明けの祝日の今日。

 

 

 

 

 

 俺は学校のレポートの途中でなくなったシャープペンの芯を補充しようと、机の引き出しを開けた。

 

 

 

 

 

「何、これ」

 

 

 

 

 

 開けてすぐのところに見つけたのは木の、箱?

 

 

 俺、こんな物持ってた?って、不思議に思いつつそれを取り出した。

 




 

 見覚えはない。

 

 

 

 

 

 でも、蓋にはさくらが描かれていて、何故か心臓がドキンとした。

 

 

 

 

 

 開ける。

 

 

 

 

 

 中は、空っぽ。

 

 

 俺は蓋を閉じてその木箱を逆さまにしてみた。

 

 

 ぜんまいが、ある。

 

 

 

 

 

 ってことは、オルゴール?

 

 

 

 

 

 くるくるとぜんまいを回して、もう一度蓋を開ける。

 




 

 ゆっくりと流れてきたメロディーに、何故だか胸の奥が、ぎゅってなった。

 

 

 

 

 

 これ、この曲。

 

 

 聞いたこと、ある。

 

 

 

 

 

 どこで?

 

 

 

 

 

 分からない。

 


 分からない、けど、どこかで、繰り返し。

 




 

 思い出しそうで、思い出せなくて。

 

 

 思い出せそうで思い出せなくて、どこかに何か書いていないかと、もう一度蓋をしてそのオルゴールの裏側を見た。

 

 

 

 

 

 Sakura.

 

 

 

 

 

 小さく書かれた文字。

 

 

 

 

 

 さくら?

 

 

 

 

 

 さくら。

 

 

 

 

 

 符合しそうな何か。

 

 

 でも、符合しない、何か。

 

 

 

 

 

 何だろう。

 

 

 

 

 

 メロディーを聞きたくて、また、蓋を開けた。

 

 

 

 

 

「………っ!?」

 

 

 

 

 

 驚いて、驚きのあまり俺は危うくオルゴールを落としそうになった。

 

 

 

 

 

 そこにあったのは、写真。

 

 

 

 

 

 さっきは空っぽだったのに。

 

 

 そこには満開のさくらの木の写真と。

 

 

 

 

 

 花びら。

 

 

 さくらの花びら、が。

 

 

 

 

 

「な、に」

 

 

 

 

 

 それを見た瞬間。



 もう、本当に、瞬間。






 俺の目から、どうしてか。

 

 

 

 

 

 涙が、溢れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る