第10話

 ちょっとは良くなったって、昨日よりは動けるようになったじいちゃんの近くに食べ物や飲み物を置いて、なるべく動くなよって言って、俺は帰るなって、じいちゃんの家を出た。

 




 

 今日は母さんが夕方から来るって言ってたから、大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 じいちゃんの家を出て、真っ直ぐ向かったのは、もちろん、佐倉さんの家のさくらの木。

 

 




 春の、春らしい暖かい日差しで昨日より更に咲いたそれに、俺の胸はぎゅってなる。

 

 

 

 

 

 咲かないで、もう、咲き急がないで。

 

 

 

 

 

「………桜海」

 

 

 

 

 

 ふわっと現れたあなたを、俺は驚きも躊躇いもしないで抱き締めた。強く強く抱き締めた。

 

 

 

 

 

 咲かないで、散らないで、俺の前から居なくならないで。

 

 

 

 

 

「今日も抱いていい?」

「………うん」

 

 

 

 

 

 そして俺たちは古い古いその家に入って、窓からさくらが見える応接間のソファの上で、想いを寄せあった。

 

 

 オルゴールを聞きながら。

 

 

 

 

 

 抱き締めて、唇を重ねる。

 

 

 何度も重ねる。

 

 

 重ねて、重ねて、重ねて、重ねる。

 

 

 

 

 

 あなたの唇は柔らかな唇。俺を受け入れるさくらの唇。

 

 

 あなたの唇は、あなたの身体は、あなたのすべては、甘い。甘くて甘くて。

 

 

 

 

 

 さくらのにおいが、するんだ。

 

 

 

 

 

 服を脱がせて組み敷いて、白い肌にたくさんのアトを残した。

 

 

 

 

 

 それは、証。

 

 

 あなたは俺のもの。その、証。

 

 

 

 

 

 あなたは俺のもの。今だけは俺のもの。消えないで。消えてしまわないで。俺の腕から、俺の前から、俺の記憶から。

 

 

 

 

 

 あなたも。

 


 この、アトも。

 

 

 

 

 

「あなたはどんどん、綺麗になる」

「そう?」

「綺麗。こわいぐらい綺麗」

「………ありがと」

 

 

 

 

 

 びくんって身体が跳ねて、甘い甘いさくらの蜜の溢れるソコが、俺を締め付けた。

 

 

 女でも、男でもないさくらの化身が、俺を受け入れ、蜜を溢れさせ、身体を捩る。

 

 

 

 

 

「もうすぐ、満開だからかな」

 

 

 

 

 

 熱い吐息と共にそう言って、俺の名前を何度も呼ぶ。

 

 

 

 

 

「咲かないで」

 

 

 

 

 

 捩じ込んで、穿つ。

 

 

 奥の奥の、ずっと奥まで。

 

 

 

 

 

 あなたの唇が俺に絡む。

 

 

 あなたの腕が俺に絡む。

 

 

 あなたのナカが俺に絡む。

 

 

 あなたの蜜が俺に絡む。

 

 

 

 

 

 あなたが絡む。

 

 

 

 

 

 俺の心に。絡むんだ。

 

 

 

 

 

「好き………好きだ、好きだよ。散らないで。消えないで、お願い、だから」

「………桜海」

 

 

 

 

 

 僕も、好き。

 

 

 

 

 

 あなたの吐息は、さくらの色。

 

 

 俺の心に咲く、さくら。

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