第8話

 オルゴールは、いつまでも鳴っている。

 

 

 ぜんまい仕掛けのはずなのに、オルゴールはいつまでも、いつまでもここではSakuraのメロディーを弾き続ける。

 

 

 

 

 

 誰の歌?何の曲?

 

 

 

 

 

 知らない曲はいつまでも、優しいメロディーを奏で続ける。

 

 

 

 

 

 あなたはさくら。

 

 

 さくらはあなた。

 

 

 

 

 

 儚く、美しく、俺を魅了して。

 

 

 

 

 

「好きだよ、あなたが好きだ」

「………うん」

 

 

 

 

 

 何度も何度も繰り返す。

 

 

 あなたに埋もれて、あなたに埋めて繰り返す。

 

 

 

 

 

「きみが、初めてだよ」

「俺?」

「こんなにも長い間、僕に会いに来てくれているのは。みんな忘れてしまうから。花が散ったら、それまでだから」

「これからも来る。ずっと来る。何年経っても、何十年経っても。ずっと、ずっと」

 

 

 

 

 

 唇を重ねる。

 

 

 こんなにもあたたかいのに、こんなにも柔らかいのに、こんなにもあなたを感じるのに。

 

 

 

 

 

 あなたは、さくら。

 

 

 さくらの、化身。

 

 

 

 

 

「すき」

 

 

 

 

 

 柔らかく聞こえるあなたの声。

 

 

 俺を感じているあなたの声、身体。

 

 

 

 

 

 咲き急ぐのは、早く俺に会いたいから?

 

 

 

 

 

 聞いた俺に、そうだよって笑う、耳元の声。

 

 

 

 

 

「きみに会いたくて、少しでも早く会いたくて、僕は咲くんだ。誰よりも早く」

 

 

 

 

 

 艶やかに、艶やかに、声をあげてあなたは言う。

 

 

 

 

 

桜海おうみ

「おうみ?」

「名前、呼んで。俺は桜海。桜が満開の日に生まれたから、桜の海で桜海」

「桜の海で、桜海」

「そう。あなたは?」

「名前は、ないよ。僕は………僕は、さくらだから」

「………さくら」

「一緒だね」

「………うん」

 

 

 

 

 

 白い身体が大きく反れる。

 

 

 

 

 

「さくらなのに、気持ちいいの?」

「さくらなのに、いいんだよ」

 

 

 

 

 

 唇が重なる、深く重なる。

 

 

 すべてが重なって、繋がって、深く、熱く、深く、熱く。

 

 

 

 

 

「もう、咲き急がないで。散らないで」

「………桜海」

 

 

 

 

 

 好き。

 

 

 あなたが、好き。

 

 

 あなたが例え、人でなくても。

 

 

 

 

 

 あなたが例え、さくら、でも。

 

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