第6話

『また会いに来てくれる?』

 

 

 

 

 

 記憶の中の、一番古い記憶の中のあの人が、消えそうな笑顔でそう言った。

 

 

 ガキだった俺は小指を差し出しゆびきりをした。

 

 

 

 

 

『絶対に来るよ』

『ありがと………』

 

 

 

 

 

 ふわりと抱き締められて、いいにおいって、思った。

 

 

 

 

 

 このオルゴールは、その時俺がもらったもの。

 

 

 

 

 

 大切な大切なオルゴール。

 

 

 無くしたり壊したり、友だちに壊されたりしないようにって、ばあちゃんに預けておいた、俺の宝物。

 

 

 

 

 

 次に会ったのは、1年後。

 

 

 俺はオルゴールを持って、俺はあの人に会いに行った。

 

 

 

 

 

『会いにきてくれたの?』

『だって約束したから』

 

 

 

 

 

 変わらない。

 

 

 

 

 

 変わらない声。

 


 変わらない姿。

 

 

 

 

 

 春の、さくらの季節だけに会える、綺麗な人。

 

 

 

 

 

 次の年も、その次の年も。

 

 

 確かに俺はここに来て、あの人に会っている。

 

 

 毎年毎年導かれるように、咲き急ぐあのさくらの木を訪れている。

 

 

 こうして、オルゴールを持って。

 

 

 

 

 

 そしてあの人に会って。

 

 

 毎日通って。

 

 

 通って。通って。

 

 

 

 

 

 忘れるんだ。

 

 

 

 

 

 さくらが舞い散る、春の風に流されて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また会いに来てくれる?』

 

 

 

 

 

 別れはいつもゆびきり。

 

 

 ゆびきりをして、風が吹いて。

 

 

 

 

 

 いつの間にか、忘れてしまう。

 

 

 

 

 

 去年も来た。確かに来た。

 

 

 オルゴールを抱えてやってきた。

 

 

 じいちゃんの家に行くふりをして。毎日。

 

 

 

 

 

 じいちゃんも、覚えてないのか。忘れるのか。

 

 

 俺が毎年春にじいちゃんの家に来ては、オルゴールを持って出掛けてるってこと。

 

 

 

 

 

 曲がり角を、曲がる。

 

 

 

 

 

 さくら。

 

 

 

 

 

 さくらの、木。

 

 

 

 

 

「会いにきてくれたの?」

 

 

 

 

 

 待っていてくれた、あの人。

 

 

 写真の人。

 

 

 

 

 

 女とも男とも言えない、中性的な、綺麗な、人。

 

 

 

 

 

「きたよ」

 

 

 

 

 

 胸の奥が、ぎゅってなる。

 

 

 

 

 

「ありがと」

 

 

 

 

 

 笑う。

 

 

 柔らかに笑う。

 

 

 

 

 

「会いたかった」

 

 

 

 

 

 そう、ずっと、会いたかった。

 

 

 会いたかった。いつも心に隙間があった。寂しくて、会いたくて。

 

 

 

 

 

 1年分の想いが、溢れ出した。

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