第5話

 じいちゃんはぎっくり腰で動けなくなっていた。

 

 

 俺との電話の後、天気が良いから布団を干そうとした時に、ぐきっとやってしまったらしい。

 

 

 そのまま布団に横になって、俺が来るまでうんうん言っていた。

 

 

 

 

 

「無理すんなよ、じいちゃん。いい加減同居しようって父さんも母さんも言ってるだろ」

「同居なんてするもんじゃない。お互いのためにならんわ」

 

 

 

 

 

 いててててって呻きながら、じいちゃんはブツブツ言っている。人を年寄り扱いしよって、的な。


 

 そのセリフがもう年寄りだろ、とは、言わないでおいた。

 

 

 

 

 

「頑固だなー、じいちゃんは。………とりあえず今日は俺泊まって行くよ。心配だし」

「泊まるって桜海、明日の学校はどうするんだ?」

「だから春休みだって」

「ああ、そうだったな。で、何年生だ?」

「だから次、大学2年生だって」

「そうだった、そうだった」

「頼むよ、じいちゃん」

 

 

 

 

 

 はっはっはって、じいちゃんは豪快に笑って、また、いててててって顔を歪めた。

 

 

 

 

 

「ほら、病院行こうって」

「病院なんか行かんでいい。軽いぎっくり腰だから、寝てれば治る」

「この、頑固じじい」

「なかなか口が悪いな、桜海は。誰に似たんだ」

「じいちゃんの息子だろ」

 

 

 

 

 

 はっはっはって、またじいちゃんは豪快に笑って、またいててててって、顔を歪めた。

 

 

 

 

 

 ぎっくり腰がどれぐらい痛いのか俺は知らないけど、これならとりあえず大丈夫そうかな。

 

 

 

 

 

「じいちゃん、オルゴール取って来ていい?」

「おお、いいぞー」

 

 

 

 

 

 俺はじいちゃんが横になってる部屋のすぐ横の襖を開けて、オルゴールが入っている箪笥を開けた。

 

 

 

 

 

 さくらの花が描かれたオルゴール。

 

 

 どうしても気になるオルゴール。

 

 

 

 

 

 手に取って、蓋を、開けた。

 

 

 

 

 

「………っ!?」

 

 

 

 

 

 流れるメロディーと。

 

 

 

 

 

「………何、で?」

 

 

 

 

 

 昨日は入ってなかったはずの、写真。

 

 

 その写真には、満開のさくらと。

 

 

 

 

 

「何で?」

 

 

 

 

 

 さっきの、人。

 

 

 さっき、会った、あの人。あの綺麗な人。

 

 

 

 

 

 符合しそうな何か。

 

 

 でも、符号しなかった何か。が。

 

 

 

 

 

 さくら。

 

 

 

 

 

 メロディーと共に、符号、した。

 

 

 

 

 

「桜海?」

「じいちゃん、ごめん‼︎俺ちょっと出掛けてくる!!」

「お!?お、おお」

 

 

 

 

 

 さくら。

 

 

 

 

 

 そうだ、思い出した。

 

 

 さっきの人。あの人。

 

 

 

 

 

 柔らかな声。

 

 

 柔らかな笑顔。

 

 

 

 

 

 あの人は。

 

 

 あの人、は。

 

 

 

 

 

 オルゴールを持ったまま、俺は、さっき来た道を全力で走った。

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