第3話
電車を降りて、じいちゃんの家までのんびり歩いた。
春の日差しが、あったかくて。のんびり。
せっかくだからちょっと遠回りをしようと、じいちゃんの家の前に続く道の曲がり角を曲がった。
何でそうしようと思ったのか、分からない。
ただ、何となく、曲がった方がいいような、曲がりたいような、曲がらなくてはいけない、ような。
導かれる。そんな、感じ。
角を曲がってふわってあったかい風が吹いて、視界に飛び込んで来たのは。
さくら。
大きな大きな、さくらの木。
他のさくらはまだほんの少ししか咲いていないのに、そのさくらはもう半分ぐらい花開いていた。
淡いピンク花。
さくら。
胸の奥が、ぎゅって、なる。
咲き急ぐようなそれに、何故か。
風にゆらり、揺れる、さくら。
俺はしばらくそのさくらを見てた。
さくら。
Sakura.
符合しそうな何か。
でも。
符合しない、何か。
「こんにちは」
「………え?」
ふいに声をかけられて、振り向いた。
「………こんにちは」
「咲いてきたね」
「そう、ですね」
柔らかい、声。
柔らかい、笑顔。
春の日差しのような。
春の日差しのように。
どきって。
どきんって。
思わず、俺は、声を掛けてきた人に見惚れた。
「また、見に来てね」
「あ、はい」
その人は笑みを浮かべてそう言って、さくらの木の脇の古い家に入って行った。
この家の人なんだ。
さくら。
Sakura.
透き通るように、綺麗な人。
胸の奥がやっぱり、ぎゅってなった。
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