第2話 父は末息子を導きたい

「シロは、魔女と一緒に暮らす。旅をする」

シロの言葉は、私達の予想通りだった。

「それはならん。お前は知らないことが多すぎる」

私の言葉に、末息子が小さく唸った。

「魔女は、代々の魔女の知識を受け継ぎ、人族の中でも賢いと聞きます。賢い魔女と一緒にいるお前が、獣人として知らないことが多いままでは、良くないでしょうに」

妻の言葉に、末息子の耳が萎れた。


 獣人としてはあまりに無知な末息子を、一人前にするにはどうするか。私達なりの策はあった。

「お前は、魔女に育てられたな。小さな頃、魔女に守ってもらった。いつまでも魔女に守られるままでよいのか」

私の言葉に、末息子が真剣な顔になった。

「良くない。魔女は、シロが守る」

末息子の口元で牙が光る。


 リンクス達からの報告では、魔女と一緒、二本足になったと喜んでいた末息子だ。私達の思惑通りの返事を返してきた。


「今のままでは、魔女は守れないな」

末息子がリンクスに勝てないことは知っていた。

「リンクスは優秀な戦士だ。リンクスのような立派な戦士であれば、魔女を守れるだろう」

私はできるだけ、重大なことであるかのように末息子に告げた。


「戦士?」

予想していなかったわけではないが、末息子は、戦士すら知らなかった。人族に育てられた末息子が、いかに私達獣人の当たり前を知らないのか、こういうときに突きつけられる。


「坊ちゃま。獣人の戦士とは、人族の騎士のようなものですよ」

「騎士」

リンクスの言葉に、末息子が興味を持ったことがわかった。


 リンクスは、人族の土地を旅し、旅先で出会った人族を妻にした。人族に関して知らない私達と、獣人の常識を知らない末息子との間を、うまく繋いでくれる。リンクスの存在はありがたい。リンクスに故郷を捨てさせた、愚かな領主のおかげだ。


「戦士は、強く賢い男の証だ。戦士であれば、魔女を守ることも出来るだろうな」

私の言葉に、リンクスが頷いた。

「私の人族の妻には、爪も牙もありませんでした。夫である私が、戦士であるということは、周囲への牽制になり、妻に良からぬことを企むものはおりませんでした。残念ながら病で亡くしてしまいましたが。妻は幸せだったと言ってくれましたよ」


 リンクスの言葉に、シロの目が輝いた。

「じゃぁ、シロは、戦士になる」

末息子は素直に、私の策に乗った。


「シロが、戦士になったら、魔女と一緒に旅をする。いい?」

末息子が私を見ていた。

「もちろんだ」

ここで否定しては、末息子のやる気を削いでしまう。


「一人前の戦士であれば、自分の生き方は自分で決める。当然のことだ」

私は重々しく頷いてみせた。


 意気揚々と息子が部屋を出ていったあと、妻は私を呆れたように見た。

「よろしいのですか。あの子は、あなたが思っているよりも、計算高い子ですのに」

ため息混じりの妻の言葉の意味を私が知ったのは、数年後だった。

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