第18話 旅
人の姿にも獣の姿にもなれる獣人は、人の国を旅する時、獣の姿になり、四つ足で駆けることが多いと、リンクスさんは教えてくれた。早く移動が出来て、目立たず、厄介事にも巻き込まれないから便利らしい。
人の足でのんびりと歩く魔女の旅では、リンクスさんやシロには退屈ではないかと、私は心配した。
「いえいえ。坊ちゃまがこうして旅をしておられたのかと思うと、大変感慨深いです」
私の横を、シロはご機嫌で尻尾を振りながら、リンクスさんは尾を優雅に揺らしながら歩く。大きな白い犬と、山猫を連れて歩く魔女は目立つ。魔女である私に向けられていた畏怖の視線は、好奇の視線に変わっていた。
宿屋では、シロとリンクスさんを連れた私は歓迎された。
「あら、やっぱりあんただね。魔女さん。シロちゃんを連れているほうがいいよ。今度は猫も一緒かい。犬と猫を仲良くさせて連れ歩くなんて、さすがは魔女だね。若いのに流石だね」
宿屋の女将の笑顔に私は苦笑した。二人が勝手に仲良くしているだけで、私は何もしていない。
「あ、シロちゃん」
「シロちゃん、遊ぼう」
シロは、子供達に誘われて、走っていってしまった。
「猫ちゃんもいるよ。猫ちゃん、お名前は」
「リンクスよ」
「リンクスちゃんも遊ぼう」
リンクスさんは大人だ。まだまだ子供のシロとは違う。子供達の誘いに興味がなさそうに、私の身体の影に隠れてしまった。
「あれぇ、猫ちゃん、遊ばないの」
「遊ばないみたいね」
私の言葉に、子供達はつまらないなどといいながら、外に出ていってしまった。
「みんな元気だね」
シロと子供達とが、走り回っている声が聞こえる。
「魔女さんも、元気そうで何よりだ」
「そう。シロが戻ってきてしまって。仕方がないから、また北に行かないと。シロが、いなくなって心配しているだろうから」
リンクスさん達は、シロを、獣人の国にいる家族の元に連れて行こうとした。だが、シロは盛大に我儘を言い、脱走した。リンクスさんが、先回りして私を探し出し、シロが私に合流するのを待った。シロは、なかなか困った坊ちゃまだ。
「伊達に長くは生きておりませんよ」
シロの待ち伏せに成功したリンクスさんは、得意気だった。何も知らない私は、ついてくる山猫、リンクスさんを怖がっていたことを思うと、まぁ、困った坊ちゃまと養育係だ。
宿屋の女将は、優しい微笑みを私に向けてくれた。
「魔女さんも、寂しそうだったからねぇ。犬は人に懐くんだよ。魔女さんは、旅暮らしが可哀想だと、預けたつもりだったんだろうけど。シロちゃんは、そのつもりはなかったんだろうさ。魔女さん、あんたが育てな。犬を拾って育てたら、そうしてやるもんだよ」
女将の言うこともわかる。
魔女となった私は、人である家族とは縁を切った。それが魔女の決まりだからだ。だから、シロとシロの家族にこだわってしまうのかもしれない。
「向こうも心配しているだろうから、まずは、ちゃんと会わせてからにしようと思ってる」
師匠についていくと決めた日から、一度も会っていない私の家族は、今も続いているだろうか。
「一匹で、魔女さんを探して旅をしたシロちゃんの気持ちも考えてやりなよ」
女将の言葉に、私は頷いた。女将の言いたいこともわかる。でも私は、シロを、家族に会わせたかった。
長年、国中を、他の獣人の国も探して、人の国にまでリンクスさん達をよこしたほど、会いたがってくれている家族に、シロを返したかった。意図せずして、私はシロちゃんを家族から引き離してしまったという罪悪感も胸のうちにある。
「一度あって、また相談して、シロのしたいようにさせたらいいかなって、今は思うけど」
「そうだね。そうしなよ」
ご家族の気持ちを思えば、シロを家族のところに返してやりたい。でもまた、一人旅は少し寂しい。三人での、今の旅が楽しい。だが、シロがどうするかは、シロが決めることだ。私は、自分の中で育つ我儘に蓋をした。
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