第13話 シロの名前
「そういえば、シロちゃん。名前は」
「シロちゃん」
嬉しそうに笑って尻尾を振るシロに、私は呆れた。
「それは私がつけた名前でしょう。さっき、リンクスさんが、ご家族と言っていたでしょう。ご家族がつけてくれた名前は」
「もうシロちゃんになるって決めた」
バサバサと、シロの尻尾が揺れる。
「坊ちゃまは、ずっとそうおっしゃっておられますので」
意味がわからない私は、リンクスさんの優雅に揺れる尻尾に、見惚れてしまった。いろいろとわからないことだらけだが、優雅に揺れる尻尾は、気持ちを落ち着けてくれる。
「わけがわからないわ」
困惑する私に、またシロがすり寄ってきた。どうやらシロは、私の背もたれになることにしたらしい。慣れた温もりと柔らかさに、私は素直に背を預けた。
「そもそもなぜ、シロちゃんは、小さい時、人の町に一人でいたのですか」
そもそも、人と獣人は習慣が違うのだ。問題は順番に解決していこう。
「大変な事件があったのです」
リンクスさんは、重々しく口をひらいた。
身を乗り出して聞こうとしたはずの私の口から、欠伸が漏れた。
「おぉ、もう夜でしたな。長い話になります。魔女様。今日はお休みになられまして、明日にいたしましょう」
リンクスさんは、少し笑うと、丸くなってしまった。シロも丸くなった。
昨夜、ほとんど眠っていなかったせいだろう。眠気を自覚した途端、瞼が重たくなってきた。獣人の国を離れ、少しずつ南に移動しているが、季節が冬に向かっていくのは止められない。
私は空間魔法を展開し、愛用の狼の毛皮を取り出した。毛皮とシロと一緒に寝たら、暖かいと思ったのだ。
それが、混乱の始まりだった。
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