第12話 天幕
結局、立ち話も何だからと、天幕を完成させることになった。途中、シロと同じ色彩の少年が我儘を言いだした。
「家を出そうよ、家。俺、あの家がいい。シロちゃんお家に帰ってきたし」
「我儘をおっしゃいますな」
リンクスさんは、優しく諭すように叱り、先程倒れてしまった支柱を立たせた。
「ほれ、手を動かす」
傅くだけではないリンクスさんに、少年は口をとがらせながらも、手を動かす。
やはり、シロだ。私の動作に合わせて、適切な力加減で手伝ってくれる。
「やっぱりシロだ」
「うん」
私の言葉に、少年の姿のシロは嬉しそうに笑った。白い髪の毛に埋もれていた耳が、嬉しげに動く。仔犬だったころから同じ耳が、元気よく動く様子に、私も笑った。
一人用の天幕に、大人三人は狭い。リンクスさんは山猫に戻った。
「あの、お気遣いいただいてすみません」
「何をおっしゃいますか。お邪魔したのは我々ですから」
山猫に戻っても、リンクスさんは会話できた。
「会話出来るんですね、あ、すみません」
失礼だったかもしれないと慌てる私に、リンクスが、長い尻尾をゆっくりと振った。
「いえいえ。獣人の中でも、坊ちゃまや私のように、獣に姿を変えることが出来、会話出来る者は極めて限られるのです。人族の魔女様がご存知ないのも仕方ありません」
リンクスさんの言葉に、私は驚いた
「シロちゃんは、喋れたの」
ふいっと顔を背けたシロに、リンクスさんが笑った。
「お若くていらっしゃいましたから。会話するには修練が必要なのです」
とたんにシロが、犬に戻った。
「今は話せる」
リンクスさんよりも、滑らかさにかける口調と、必死な様子のシロに、私は笑ってしまった。ふてくされたシロが、グイグイと頭を押し付けてくる。分厚くて柔らかいのに、少し硬いシロの毛皮が嬉しくて、私は抱きしめた。バサバサと乱暴に振られる尻尾に、リンクスさんのような優美さはない。
拾ってきたばかりのときの小さなときから、シロは尻尾の使い方が雑だ。千切れないとわかっていても、心配になるくらい振り回すのだ。懐かしいやら嬉しいやらで、私はすり寄ってくるシロに頬ずりをして気付いた。
そうこれは、つい先程まで、人の形をしていたシロだ。
「うわっ」
考えるよりも先に、シロを突き飛ばしてしまった。
「キャン」
驚いた私と、ひっくり返ったシロの目があった。驚きながらも、シロは驚くと鳴くのかと、どこかで冷静な自分に少し驚いた。
「坊ちゃま、魔女様、まずは落ち着いて、おかけくださいませ」
冷静なリンクスさんに、シロも私も、座り直した。
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