03.ギルドの定例会(3)
定例会議、などと銘打たれた集まりはグロリアの予想を大きく逸脱する事もなく、淡々としたただの業務連絡だった。
気になる話題と言えば変異種の目撃報告及び対処法くらいか。
――しかしそれも、出会った変異種の話題ばかりで新しい情報はほとんど入っては来なかったけれど。
「――変異種に関する情報は以上だが、気のせいだろうか。半数以上がグロリアパーティからの報告だったな。偶然か?」
報告しながらその事実に気付いたのだろう、サブマスター・ゲオルクも少しばかり怪訝そうな表情を浮かべている。
ここでそれまでずっと眠そうに顔をしかめていたクリメントが意外にも会話へ横槍を入れた。
「新規精鋭のグロリア氏の所が、今一番クエストへ行っているからでは? 逆に僕は夜型だからか、変異種には全然出くわしておりませんし?」
「……ふむ。確かに深夜帯で活動しているパーティからは全く変異種との遭遇報告を聞かないな」
聞き捨てならないな、と折角静かにしていたはずのデリックが嘆かわしいと言わんばかりに仰々しく天を仰いだ。
「サブマスター、グロリアを贔屓するのも構いませんが俺達にも緊急クエストを回してくださいよ。セレクションの面汚し、リッキーがぼやいていましたよ。緊急のクエストをすぐグロリアに回したがると!」
「ではこちらもこの際、はっきり言わせてもらうが」
ここでゲオルクは目を眇め、グロリアを置き去りに経営計画について話始めた。
「こちらはお前達を育てる為にギルドを経営している訳ではない。今のセレクションは3位までのSランクパーティを除き、正常とは言い辛い散らかった状態だ。これを数年の間で是正し、あるべき姿に戻す。ではまず何から着手するべきか? セレクションの順位だろう」
「ば、馬鹿な……グロリアのパーティは確かに竜人族がいる珍しい構成をしています。しかしこの間独立したばかりの新パーティですよ?」
「誰もグロリアのパーティを指して言ったわけではないが。そうだな、ロボのパーティにクリメント、お前の所もだ。指名クエストを利用するような客の中に馬鹿はいない。どこのパーティとは言わないが売り上げが悪いな。格と位が見合わず、金を払っても損をすると思われているからだ」
唐突に名指しされたクリメントは渋い顔をし、大袈裟に肩を竦めた。
「いやいやいや、藪蛇止めてくださいよ。きついっすわ。自分はこのくらいの位置でテキトーにやるんで、ギルドの都合に巻き込まないで欲しいですね」
「はは。いやだが、やけに急ぐとは思っていた。そういう計画があった訳か」
2位イェルドは高みの見物か、面白くなってきたと言わんばかりの口調である。同族のそんな様子に、抗議の声を上げたクリメントはじっとりとした視線を投げ掛けているが。
が、そんな彼はイェルドとは分かり合えないと判断したのだろう。同じく話題の中心にいるのにコミュニケーション能力がドブカス過ぎて会話について行けていなかったグロリアへと、唐突に同意を求めてきた。
「あー、はいはい。S上がりでポジション戦争がほぼ終わってるイェルド氏はお気楽そうで何よりですわ。ど、どう? グロリア氏、正直そんなに急いで順位なんて上げたくないでしょ。大体、入れ替え戦の為に昼に活動するの勘弁してくれないかなホント」
「はい」
「お、おう……。それはどっちの意味でのハイ……? あ、いやその、まあ、答えたくないのなら別にいいけどさ……」
まさかこちらへ振ってくるとは思わず、意味不明な返答をしてしまう。
しかもやはり、どことなく煙たがられているからか相手も若干挙動不審で会話が困難。逆に緊張するから普通にしてくれ。話し掛けたくないのなら、無理しないでいいのに。
そんなぎくしゃくしたやり取りを意に介さずゲオルクが鼻で笑う。
「好きにするといい。ギルドに所属している以上、ギルドマスターが是と言えば入れ替え戦でも何でもすぐに決行される。それが組織に所属するという事だ」
話が脇道に逸れた為、放置されていたデリックが再び会話に入って来る。一時期は言われた言葉について整理していたようだが、やはり納得はしないのだろう。眉間に皺が寄っている。
「で、では、グロリアの功績を積む為にこれからも緊急クエストの類は期待しているパーティに振ると!?」
「当然だ。……ああ、不満があるのならばコンラッドにでも掛け合ってみるといい。奴に私の計画を邪魔するだけの能があるとは思えないが」
コンラッドとはもう一人のサブマスターだ。
彼は主にBランク以下のパーティと関りが多い。正直、イェルドのSランクパーティから抜けて即Aランクパーティのリーダーとなってしまったが為に関りがあまりない人物である。
ただし同時にギルド所属したてのランクを持たない新米ギルド員が最初に世話になる相手だ。グロリアでさえ、《レヴェリー》へ最初に来た時は彼から色々と研修を受けた。
コンラッドの名前が出た事で、デリックは更に煽られたと感じたのだろう。不満の表情を最早隠しもしない。それもそうだろう、コンラッドへ頼れと説くのは「お前達はBランクパーティ以下の存在だ」と面と向かって言っている――ようにも受け取れる言葉だ。
そしてサブマスターにとってこれ以上の説明は面倒事以外の何者でもないらしい。話を切り上げるかのように、会議を締めるような発言を口にする。
「話が脱線したな。他、報告事項が無いのであれば今月の定例会を終了する。……では」
誰も発言しないのを確認すると、それだけ言い残したゲオルクはさっさと部屋から退室した。去り際が鮮やか過ぎる。
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