02.ギルドの定例会(2)
誰か来てくれ。
そんなグロリアの祈りが天だかどこかだかに届いたのだろう。
「暇だから来てやったぞ、感謝しろよ……。って、お前等だけ?」
――有難いけど、嫌な人選!
現れたのは鬼人、セレクション3位の紅葉だ。彼女はこちらを見て、ふんと鼻を鳴らした。この空間にこの人物、大丈夫だろうか。血を見る事にならないか?
そんなグロリアの心配など置き去りに、8位の彼――デリックが果敢にも紅葉へと絡みに行くのを横目で見送る。やっとこの不思議な人物が離れた事実に安堵の溜息すら漏れそうになった。
やはり仰々しい態度でデリックが紅葉に挨拶し、そしておもむろに口を開く。もう彼は黙っておいた方がいいのではないだろうか。
「こんにちは、紅葉さん。このような会議にご出席されるのは珍しいですね」
「あ? 偶然だよ、今回は」
「それにしても女性しかいないパーティ、大変羨ましいですね。しかし女性しかいないのは大変でしょう。何かあれば俺が――」
ああ? とチンピラのような音を喉から出した紅葉の美しいかんばせが不機嫌そうに歪む瞬間を見た。
彼女は鬼人。強弱の話には酷く敏感だ。
ややあって、紅葉は不機嫌さを酷く馬鹿にしたような笑みで以て塗り替えた。
「はは、誰にモノ言ってんだテメェ」
「い、いえ。何かと大変かなと思って――」
「何寝言をほざいてんだ、つってんだよ。ヒューマンのヒョロガリが」
「……は、はは」
「ははは、何か面白かったか? お前、ここが極東じゃなくてよかったな。まだ目の前の雑魚を縊り殺していない私、偉過ぎるだろ」
「……」
「まずそもそも、私に馴れ馴れしく話しかけてきているけど誰だよお前。雑魚が調子に乗って話しかけてくる前に、ママにでも鬼人の扱いを教えてもらっとけクソガキ」
――凄い空気になってきたなあ、この部屋……。
真っ青な顔で沈黙するデリックからそっと視線を外す。何ともまあ惨い会話だった。間違いなくバッドコミュニケーション。こういう会話をしてはいけない、脳にそうインプットした。
あとはこの2人のやり取りに巻き込まれないよう、努めて空気と同化する。組み合わせが最悪過ぎる、胃が痛い。
ただしここで追加の人員達が現れた。
イェルドとクリメントだ。イェルドはともかく、クリメントからは良く思われていないので何とも言えない人選再び。
「やあ、久しぶりだなみんな。何だか空気が……重いが、また紅葉に絡んだのか? デリック」
既に何かを察している様子のイェルドは僅かに顔を引き攣らせている。
この話題に長時間触れるのは危険だとでも判断したのだろうか、その視線が今度はグロリアへと向けられた。
「グロリア、最近はどうだ? 順調だろうか」
「こんにちは、イェルドさん。私は特に問題なく日々を過ごしています」
「いやあ、あの面子で日常を送れているの、素直に感心するなあ」
遠い目をするイェルドを尻目に、グロリアはちらりとクリメントへ視線をやった。一瞬だけ目が合うものの、つれなくふいと逸らされてしまう。監視されているのだろうか? 何か変な事でもしでかさないかと。
――心当たり、無いんだよね。最初からほんのり嫌われていると言うか。こっちに危害を加えて来ないならいいけれど、合同クエストとかあったら嫌だなあ。
「グロリアは初めてだったな、会議」
「はい、イェルドさん」
「実はこの定例会議、メンバーの出席率がかなり低いんだ。今日は人がいる方だよ。紅葉にクリメントと、レアな面子も揃っているしな」
「そうなんですか」
「ああ。紅葉は受付で嬢に捕まったかな。クリメントはお前がいるのを確認してから来た」
「……」
急に槍玉にあげられたクリメントはイェルドを睨み付けている。冗談にしても気に食わなかったのだろう。イェルドにその気は無さそうだし、仲良くしろとでも思っていそうだが逆効果である。
「ま、そういう訳だ。今日はこれ以上、メンバーは増えないと思うぞ。グロリア」
「そうですか」
――来月からぶっちしよ!
瞬時にそう決意を固め、心中で拳を握り締めた。
丁度いいそのタイミングで、議長でもあるサブマスターがスタスタと室内に入ってくる。漂う異様な空気などものともせず、ホワイトボードの前に立った。毎月開催している会議だからか、その足取りに迷いはない。
「会議を始める。適当な椅子に座れ……。ん? 珍しい顔ぶれが数名いるな」
ぶつぶつ言いながら、ゲオルクが今いるメンバーに着席を促した。
ほぼメンバーが揃っていないことには言及しないので、いつもの光景なのだろう。何の為に開催しているのだろうか、この定例会議とやらは。
「紅葉にクリメント……? 何だ、珍しいな。まさか報告が必要な厄介事でも?」
眉根を寄せたゲオルクの問いに、不機嫌を隠しもせず紅葉が吐き捨てた。
「クエストの完了を出しに行ったら、受付の連中に捕まったんだよ」
「こちらはたまたま昼に活動していたので。ついでに」
ほう、とゲオルクが興味深そうに相槌を打つ。
「紅葉はともかく。クリメント、お前が昼間に活動しているのはそれそのものが珍しいな。が、ただのたんなる気紛れならいい」
指摘に肩を竦めたクリメントは、面倒臭そうに刺々しい溜息を吐き出した。恐らく同じ問いをイェルドにもされたものと思われる。そこまで夜型なのだろうか。よくよく観察してみれば、目の下にあまりにもはっきりと濃い隈が見えるが。
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