03.情報の共有(3)

 ***


「昼集合、キッツ……」


 Aランクパーティのリーダーであるクリメントは、窓の外から見える燦燦と輝く太陽を見てぐったりとそう呟いた。

 何せ、パーティは夜型で運営している。もう絶対に辛いと思ったので、本日は活動をお休みにしたがそれにしたって夜のクエストから帰ってすぐにセレクション・パーティのリーダーを集めて会議などあまりにもハードスケジュールである。

 ――これが推し……グロリアちゃんの話じゃなかったら、ボイコットしてたわ。


「お疲れ、クリメント。お前は正直、来ないと思っていたぞ」

「僕だってこんな時間に自分とほぼ関わりのない連絡事項の為、会議室にいるなんて驚きですわ。これが推しの力。多分、そろそろ病気にも効くようになると思う」

「こわ……」


 気を使って話しかけて来たのであろうイェルドは苦笑している。

 お分かりかもしれないが、本日の議題はセレクション入れ替え戦に関する連絡だった。当然、『まだ』セレクション入りしていないグロリアはいなかったが、『まだ』セレクションのパーティであるリッキーは当然出席。

 大分、苛ついているのは遠目からでもはっきりと確認できた。10位に定住していた彼も、相手がグロリアでは心中穏やかではないのだろう。


 そこまで考えたクリメントはそれとなく会議室に残っているメンバーを確認した。

 というか、自分とイェルドしかもういない。他の連中は欠席、または話が終わると同時に姿を消したのだろう。

 誰もいないのをいいことに、クリメントは同郷のエルフへ話題を振る。あんまり表では大声で話すべきではない内容をだ。


「それにしても、入れ替え戦決定までが早すぎでしたな」

「ああ、俺もそう思うよ」

「やっぱり、ゲオルクさん……最初からその気だったのかもしれませんなあ! グロリアたんをAランクパーティにしてから、計画していたみたいに今回の話まで手際が良過ぎですわ」

「そうだろう、もう流石に否定できる材料の方が少ない」


 それに、とここでクリメントは声をワントーン落とした。


「ゲオルク氏は前々からリッキー氏をセレクションから外したがってたのも事実だし、お気にのグロリア氏のパーティを入れ替えられてご満悦って所っすわ」

「……リッキーには悪いが、彼には能力が足りない。カリスマ性のようなものはあったし、問題児をよくまとめてはいたが所詮ギルドは能力主義だからなあ……。それに俺の勘違いかもしれないが、リッキーのパーティは11位以下だった時の方が、何と言うか勢いがあったように感じる」

「10位に入れて満足したか、天狗になったのでは?」

「そうかもしれないな」


 ところで、と辛気臭い話題から一転。戦闘能力が突き抜けたつよつよ同族に、今後の見解を尋ねる。


「入れ替え戦、どうですか? グロリア氏は勝てそう?」

「サシであれば、グロリアは誰と当たっても負けはしないだろう。問題はリッキーパーティの人数がかなり多いという事だ」

「懸念点は人数差だけという解釈でOK?」

「それに、リッキーパーティはメンバーのバランスが良い。グロリア達はそれぞれがいないポジションを上手く補うが、向こうはそれぞれのポジションを一人ずつで埋める構成だ」

「ふむふむ。ま、どこか崩せばそこから楽勝でしょ。勿論僕は、グロリア氏をずーっと応援しておりますぞ! 上手く行けば《相談所》の連携も拝めますなあ……」


 そこでイェルドはやや悩まし気な表情を浮かべて頭を振った。


「俺が見ている限り、《相談所》3人が連携を組んでいる所は見ていない。キリュウは見た事があると言っていたが、魔物戦だった事もあってあまりイメージが出来ないな」

「各々、強いから連携が不要というのはあるでしょうな」


 以前、まだ《ネルヴァ相談所》が存在していた頃のその思い出を引っ張り出す。

 フードの少女がイコールでグロリアだったのを脳内で補完。追っかけをしていたクリメントは積極的にあの危険人物集団と関わっている。怪我をした事だってあった。


 あの推し3人組で詰めている時は全員がアタッカーであり、全員がサポーターだ。ベリルとジモンに気を取られれば、当たると非常にマズイ高威力の魔法矢に襲われ、逆にそればかりを警戒すれば前衛2人に手痛い仕打ちを受ける。

 実に分かりやすい構成で、そして堅実な攻め手だったはずだ。そのポジション取りで大抵の敵を討ち取るので、遠回しな作戦を決行している場面はおよそ見た事が無い。敵に回れば拝めたのかもしれないが、生憎とクエストの取り合いという小競り合い程度の戦闘しかしていないので何とも言えなかった。


「――ともかく、グロリア氏が負けるの地雷なんで。つよつよグロリアたんしか勝たん!」

「どんなイメージだ……。ま、何にせよ久しぶりの《レヴェリー》公式戦だ。両者のあれこれは置いておいて、祭りとして楽しむとするさ」


 そう言ってイェルドが微笑む。

 自身の手から離れたグロリアを分かりやすく優遇するつもりはないようだ。リッキーのパーティ内訳を教えるような野暮な真似もしないとはっきりそう言っていたのは記憶に新しい。

 結局のところ、この変人だらけのギルドにまともな人間などいない。Sランカーであるイェルドも当然例外ではないという訳だ。

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