02.情報の共有(2)

「あのさ!」


 醜い言い争いを繰り広げていると、不意にエルヴィラが口を開いた。思わぬ横槍に、グロリアを含む《相談所》メンバーが口を閉ざす。


「実は私、ここへ入る前はリッキーパーティにいたの。Aランクの受験に失敗して追い出されてしまったけれど……」

「追い出されたつってたな、そういえば」


 特に思う所はないらしいベリルが、彼女の申告を事務的に受け取る。かなり温度差はあるが、項垂れたエルヴィラは更に言葉を続けた。


「普通に憂鬱だわ……。リッキーさんと戦うの。私を追いだす時も、鬼のような形相だったし」

「はあ? 知るか。というかやり返せよ。何をやられたままになってんだ……」

「ええ……。前々から思っていたけれど、攻撃的過ぎない?」

「それの何が悪い。ボコボコにしてやれよ、うじうじするな」


 ベリルの適当過ぎる助言にしかし、エルヴィラはやや元気を取り戻したようだった。今の会話のどこにそんな要素があるのか分からないが。


「そうよね……。やり返すチャンスだもんね」


 ふん、とジモンが鼻を鳴らす。


「なんでもいいが、パーティを追い出されてから数日しか経っていないはずだ。普通に返り討ちでは?」

「そう言うなよ、ジモン。グロリアがこいつの面倒を見る、つってんだから勝たせてくれるだろ」

「お嬢はエルヴィラの面倒を見る為にリーダーをやっている訳ではないのですが」


 揉める二人を他所に、エルヴィラが小さく溜息を吐いた。


「リッキーさん、今頃入れ替え戦について聞いてるだろうけど、どうしているのかな」

「苛々しているかもしれないですね」


 グロリアの中でのリッキーという人物像はいつもそうだ。人を馬鹿にしたような笑み、または苛ついた表情の二択。

 それを聞いたエルヴィラにも思う節があったのか、少しだけ笑っている。


「確かに。リッキーさん、思い通りに行かない事が嫌いだもの」


 ***


「ああ、クソクソ……っ!」


 リッキー・ワイマークは大方の予想通り、苛々とロビーに備え付けられている机を指で叩き、全身で感情を露わにしていた。

 というのもつい先程、セレクション・パーティ入れ替え戦の最終連絡がサブマスター・ゲオルクにより通知された。それが苛立ちに拍車を掛ける。

 ――つい最近、結成したばかりのパーティのくせに……。何が入れ替え戦だ、俺のパーティをセレクションから弾きたかっただけだろ……!!


「――もう、イライラしないでよ。こっちまで不快な気分になるじゃん」


 荒れた様子を見兼ねて掛けられたであろうその言葉に、机を叩いていたリッキーの指が止まった。

 ぐったりと深呼吸を繰り返し、正面に座る少年を見上げる。


「白浪……」


 彼はパーティメンバーの一人。極東からやって来たと噂の鬼人であり、パーティのエースアタッカーでもある。

 何を考えているか分からない無機質な目と目が合った瞬間、リッキーは首を振った。


「すまん、ピリピリしてた」

「別に良いけどさあ、あんまり苛々すると身体によくないらしいよ? ヒューマンなんて貧弱なんだから、気を付けた方が良いんじゃないの?」

「いや、ヒューマンを何だと思ってんだよ。流石にそこまでじゃないだろ……」


 白浪は古参のメンバーである。

 普段はぼーっとしていて何を考えているか分からず、そもそも大抵の事に興味が無いようだ。ただ――


「それでさ、リッキー。そのグロリアのパーティはどう? 強いの?」


 ――始まったよ……。

 内心でぐったりと溜息を吐く。これだから鬼人は扱い辛い。戦闘狂で、その為ならば今がどんな状況だろうと関係はない。より強い者と戦えるのならばなんだって構わないのだ。それが例え、入れ替え戦であろうと。

 あんまり考えたくはない話題ではあるが、アタッカーに頑張ってもらう為にグロリア・シェフィールドについて思いを馳せる。


「パーティについてはよく分からないが……。グロリア単体なら、強さは本物だぜ。あの66期生き残り3人の内の1人だしな。それに何だっけ? 《ネルヴァ相談所》に元々所属してたらしいな。会った事ないから何とも言えないけど」

「へえ……」

「楽しそうな所悪いが、グロリアよりパーティに入った竜人を気にした方が良いだろ。種族の段階で大きく差を付けられてんだから」

「ヒューマンはつまらない事を気にするね。ここまで来たら、種族補正なんてもう関係ないから。鬼人にもクソ雑魚はいくらでもいるし」

「本当かよ……」

「楽しみだな。出来れば全員と戦ってみたいけど……。ま、難しいかな。強そうなのが3人もいるし」

「あっそ。……そりゃよかったな」


 ――実際問題、《相談所》が聞いた通りの実力なのかは知らないけど。

 正直、誇張表現だと思っている。仲間には欲しいラインナップだが、自分達と彼等の間に越えられない程の差があるとも思えない。

 それにサブマスターが《相談所》に夢中なのも気に食わなかった。どうにか奴等を倒して、大した連中ではないという事を証明したい。

 ――俺達は10位のパーティだぞ……。少数精鋭とか聞こえのいい事を言っていた解散後の組織の残党なんかに負けるはずがない。


 心を落ち着けるように、リッキーは深く息を吐き出した。

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