17.場違いな人物(5)
ロビーで騒いでいると、姿の見えなかったサブマスター・ゲオルクが不意に現れた。
「グロリア。クエストを無事に完了してくれたようだな」
「はい」
「対応ありがとう。やはりお前達に任せて正解だったな。人質も基本、助かってはいるし物もあまり壊していない。盗賊団もすぐに降伏したおかげで、ゼロではないが少なめの死人で済んでいる」
――そう。外の見張り数名はベリルとジモンが容赦をしなかったせいでそれなりに死亡者を出してしまったが、村内にいた盗賊達は割と存命している。
というのもリーダー・イザエルがさっさと姿をくらました事により動揺し、人質にされていたギルド員も解放できた辺りからあっさり投降したのだ。
「報酬の話をしなければならないな。勿論、ほとんど件のクエストを片付けてくれたお前達のパーティに多く分配しよう。……とはいえ、前2つのパーティを無賃で働かせるわけにもいかないから、そこは我慢してくれ」
「ええ」
「そして、もう一つ。こちらは私からの報酬だ」
「?」
ここで一瞬だけ勿体ぶるように言葉を止めたゲオルクが、心なしかにこやかな雰囲気で続く言葉を紡ぐ。
「――セレクション・パーティ入れ替え戦の参加権だ」
――要らねー!!
心中で叫ぶ。成程、忘れていたがこの話題に繋がるという訳か。彼からしてみれば、失敗者が続出した緊急クエストも片付き、そのついでにセレクションの入れ替え整理の口実も作られて万々歳と言うことだろう。恐ろしいまでの手際の良さだ。
会話を聞いていたのだろう。エルヴィラが、ベリルとジモンにセレクション・パーティとその入れ替え戦について説明していた。
「――って感じね。当然、セレクション・パーティに入れば単価が高い指名を受けられる確率も上がるわ。何せ、ギルドの保証が付いているようなものだもの」
「上質なクエストが取りに行かずとも、回って来る可能性が上がるって事か」
ジモンがうんうん、と頷く。それを聞いたベリルもへえ、と悪い笑みを浮かべた。
「そりゃいい。クエストは奪い合いだからな。そっちから転がり込んでくるのなら、楽になる」
クエストの取り合いが日常的に起きているのは否定できない。
クエストの報酬はピンキリだ。子供の小遣い程度にしかならないものもあれば、良い武器が一括で買えるくらいに稼げるものまで様々。
ただし、そういった報酬の高いクエストは数が少ない。故に早い者勝ちとなるし、何なら《投影》で模擬戦をやって勝ったパーティが取得なんていう決闘が日常的に行われていたりなどする。
そう言った諸々の事情により、ベリルは満足そうに喉を鳴らした。彼は無職生活を2年も続けたせいでシンプルに金がないのだ。
「グロリア。その10位パーティとやらを叩き潰して、セレクションに入るぞ。カスみたいな報酬のクエストなんざやってられねえ」
「……はあ」
「俺としてはクエストの報酬より、お嬢が舐められる訳にもいかないので。やるからには相手を潰す勢いでやりましょう」
あまりの好戦的さに言葉を失う。でもよく考えてみたら、《ネルヴァ相談所》など全員こんな感じだった。懐かしいものだ。
「では、日程が決まったらまた連絡する」
そう言ってゲオルクは忙しそうに去って行ってしまった。彼の仕事はまだまだ終わらないようだ。
***
パーティを解散し、自宅に帰ったグロリアは盛大にぐったりとした溜息を吐いた。
自宅とは良いものだ。《相談所》時代は事務所に間借りしており、建物の中に自分以外の誰かが必ずいた。しかも知り合いが。けれど、自宅をゲットしてからは周囲は他人なので人の目を気にする必要もなく休める。
「今日も疲れた! 頑張った、私!」
人と話す時よりも随分大きな声が出る。こうしてたまに大きな声を出さないと、発声方法を忘れてしまいそうだからだ。
そのままの勢いでベッドへダイブし、そしてふと故郷の村について思いを馳せる。そう、父と住んでいた生まれ故郷の今はもうない小さな村の事をだ。
あの村の生き残りは自分だけ。祭りで使う魔弓の練習をする為に、近くの森にいたおかげでグロリアのみが火に巻かれる事もなく、盗賊と鉢合わせる事もなく生き残った。その後、クエストを受けたか何だかでやって来たのが《ネルヴァ相談所》の面々だったのである。
「アイツ等の目的、何だったんだろう……」
単純に人を殺すのが目的?
良い思い出では無いのであんまり考えないようにしていたが、今日のクエストでふと疑問が湧いた。あの盗賊達もまた、村を襲う明確な理由がないようだったし。
――暇があったら調べてみようかな。
ただ取り合えず、後日開催されるらしいセレクションの入れ替え戦に集中するべきだろうが。
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