21.同僚のスピード出世

 ***


 夜間にクエスト以外のギルド員がぼちぼち帰り出すような、絶妙な時間帯。

 ジークはパーティが集められた部屋にて、静かに溜息を吐いた。


 パーティ編成の問題に関わってくるので、午後からイェルドパーティで集まっていたのだが――ここにグロリアはいない。というか、先程一瞬だけ顔を見せたリーダー・イェルドもすぐに出て行ったのでいない。

 そのリーダーはやはりパーティの編成に関わる爆弾を落とした後、その爆弾を処理しに再び出て行ってしまった訳なのだが。


 ――グロリアが独り立ち……。《ネルヴァ相談所》の元メンバー……前の仲間……。

 ぐるぐると取り留めのない情報が脳内を巡り続ける。そんなジークを見かねたのか、ユーリアが声をかけてきた。


「悩んでいるのかしら? お多感な年頃なのね、ジーク」

「ユーリアさん……」

「もしかして――グロリアの新しいパーティに付いて行こうだとか考えているのかしら?」


 頭の片隅で少しだけ考えたそれを言い当てられ、言葉に詰まる。

 基本的にイェルド以外には興味が無いであろうキリュウですら、部屋の隅で耳を傾けているのが伺えた。


「そうですね。少しだけ、それも考えました」

「あら。グロリアに相談してみたら? 今独り立ちしても、メンバーは2人しかいないのだし歓迎してくれるんじゃない?」

「俺が入って何になるのかな、と思って」


 そう。自分があの完成されたメンバーが集うパーティに入って何の役に立つと言うのだろうか。グロリアがそもそも加入を拒否する可能性だってあるが、彼女も彼女で何を考えているか分からない。

 というか――役に立たないメンバーがいようと、興味も無ければ頓着しなさそうなのが恐い。眼中にない、と言えばそれが正しいだろうか。


 悶々とするジークを眺めていたキリュウが、これまた珍しく自らの意志で苦言のような響きを舌に乗せる。


「いや、そんなに悩むなら止めておいた方が良いと思うけどね。新設パーティってのはトラブルが絶えないものだし」

「それは確かにそうですね」

「まあ後……経験の少ないメンバーだけで集まって成功したAランクパーティは、今の所はロボのパーティだけさね。あそこはギルド在籍3年未満で集まってるが、セレクション――上位パーティだ。グロリアにそういった社交性があるとは思えないな」

「実力で全てを解決するタイプですからね、彼女は」


 遠巻きに見た事がある66期生き残りのロボ・ガウスという青年。

 とても人当たりがよさそうで、且つ面倒見もよさそうだった。まさに好青年の体現者と言った調子で、周囲からの評判も良い。そうして社交性を武器に伸し上がったパーティだ。

 そうねえ、とキリュウの意見にユーリアも同意する。


「グロリアは誰が足を引っ張っても淡々と解決しそうだけれど、彼女の保護者面をしているベリルの方は、激しく人のミスを責め立てる可能性があるわ。あのパーティ、加入して馴染むのは難しいかもしれないわね」

「そうそ。それに奴の実力は確かだ。はー、嫌だね。あんなのが先輩のパーティなら、俺はごめんだわ」


 ――パーティへ加入するのは、俺の実力では厳しいだろうな。

 せめてAランクに上がれるだけの実力があれば。それだけの実力があったのならば、きっとこんなに悩まなかっただろう。

 考えているうちに話題は移り変わる。

 それにしても、とユーリアが仰々しく肩を竦めた。


「まさかあの無口でカワイイ後輩のグロリアが……《相談所》の元メンバーだったなんて。驚きよね。全然そんな素振りを見せなかったもの」

「ま、ベラベラと自分の事を話すような性格でもないしな。いやー、まさか久しぶりに話しかけられたと思ったらベリルの捜索に協力させられてたとは思いもしなかったなあ……」


 キリュウは遠い目をしている。

 ――と、席を外していたイェルドがふらっと部屋へ戻って来た。


「急に抜けてすまなかった。何か話でもしていたのか?」

「世間話ですわ。それで、結局グロリアの処遇はどうなるんです?」


 キリュウの問いにリーダーが苦笑する。


「取り合えずAランクの試験を受けさせる事に同意はさせた。上がるまでは俺が面倒を見るよ。指名制度が受けられないのは致命的だしな……」

「あら、そうなの? Aランク試験なんて、随分前に受けたから覚えていないけれど、グロリアは上がれそうなのかしら」


 大丈夫だろ、とイェルドはあっけらかんと言い切った。


「筆記は多少心配しているが、グロリアは賢い。教材を与えれば問題なく通過するはずだ。実技も同じく試験を受けるBランカーとの模擬戦だし一位通過で判定待ちにもならないと予想できるな」

「一位通過だと何かあるんですか?」


 ジークの問いに、薄ら笑みを浮かべたユーリアが簡単に説明してくれる。彼女はとても楽し気だ。


「ジークはまだ受験した事が無かったものね。実技はそもそもトーナメントなのよ。これは昇格試験自体が一つの娯楽として提供されているから……まあ、有り体に言ってしまえば入場料が欲しくてエンターテイナー性を持たせてるのよ。

 そんな訳でトーナメント戦なのだけれど、これが曲者なのよね。一位通過者は余程筆記が酷くない限り、確定で昇格よ。つまり1回の試験につき、一人は合格者が出るようになっちゃったのよ」

「へえ、協会ってそういう所がありますよね。金が掛かるだけの試験で、金集めか……。資金難になられても困るし、別に構いませんが。二位以下はどうなるのですか?」

「勿論、立ち回りによってはちゃぁんと上がるわよ。でも……トーナメント初戦で躓いた子達は大半が落とされるけれどね。これのせいでAランカーへの昇格は狭き門になってしまったようなものだわ」


 Aランカーは絞られ過ぎて数が少ない。多くのギルド員はBランクで打ち止めとなり、Aランクでの制度を利用できずにいるのだ。

 そうだ、と不意にイェルドが呟いた。


「ジークも受けるか? ただ、グロリアがいるから今回の試験は大分厳しいが……。経験にはなると思うぞ。腕試し、という訳だな」

「……検討します」


 Aランクに万が一、臆が一にでも上がれれば。

 グロリアにメンバーについての相談が出来るくらいの度胸が出るかもしれない。

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