20.リーダーの苦悩(3)

 すまん、とここでイェルドがとうとう尋ねた。


「――プライベートな事を聞くのは不躾だが、その……お前達はどういう知り合いなんだ?」


 胃を抑えたリーダーの問いに怪訝そうな顔をしたのはベリルだった。


「はあ? お前等、俺達の事を一方的に知っているくせにグロリアの事を知らなかったのか?」

「ベリル。私は今のあなたみたいに、フードを被っていた」

「そうだったか……? ああ、だから頓珍漢な事を言い出したわけか、このエルフは。という事は既に《相談所》のメンバーが内部にいる事に気付かず今まで過ごしてたって? はは、面白いジョークだ」


 イェルドは頭を抱えて奇声を漏らした。これはグロリア自身も確かめたから間違いない。《レヴェリー》の在籍者は、グロリアの前職を誰も知らなかったのだ。


「あああ……。いや、成程な。異様に強いとは思っていたんだ、Dランクの時から……。思い返してみれば《相談所》は若干名、顔が分からない構成員がいた……」


 それを見て機嫌がよくなったらしいベリルは高笑いしている。何も面白くないのだが、急にどうしたのだろうか。


「グロリア。《相談所》にはどれくらい前からいたんだ?」

「10年前から」

「……え? いや待て。歳の計算が合わなくなるが、子供の頃から在籍していた事にならないか?」


 説明がかなり長くなるので、どういうべきか考えあぐねているとベリルがさらりと口を挟んだ。もう機嫌が良い期間は終わったようだ。


「人様の事情に首を突っ込み過ぎだろ。事情は人それぞれだ」

「……それもそうだな。悪い、グロリア。でも少し興味があるから、もしよかったら今度教えてくれ」

「世間話ならもういいだろ、帰らせろ」


 痺れを切らせたベリルがそう言うと、イェルドは苦い顔で首を横に振った。彼は緊張を解す為にこうやってちょっとした世間話を挟む事が多々ある。尤も、短気なベリルとは相性が悪かったようだが。


「――あー、そうだな。すまんグロリア。言い辛い知らせがある」

「……?」

「俺のパーティの方針的にベリルはメンバーに加えられない。うちは初心者育成が目的のパーティだからな。最初から強い奴はそのまま積極的に上を目指してほしい。それに、これはただの予想だが、ベリルは恐らく俺のパーティには入らないだろう」


 そうだな、と渦中の人物であるベリルはあっさりと頷いた。


「分かってんじゃねぇか。悪いが、見ず知らずの人間と仲良しこよしは出来ねぇな」

「自分の立場、分かってる?」

「お前、ちょこちょこ俺に厳しいのは何なんだ……」


 ――そっちがふざけた事を抜かすからでしょ!

 ベリルのぼやきに、心中で猛反発する。冗談ではない。ここでパーティからベリルが追い出されたら、彼はどうやって今から活動していくと言うのか。

 だが勿論、イェルドにとってはそれもまた織り込み済みらしい。内心滅茶苦茶に焦っているグロリアへ別の提案を持ちかける。


「グロリア。独り立ちするのはどうだろうか? 《ネルヴァ相談所》に在籍していた以上、実力も経験もある。何より次でAランクだ。指名クエストも受けられるようになるし、幸いにももうすぐ昇格試験の季節。丁度いいと思うが」

「そりゃいい。ぱぱっとその試験とやらを受けて、新しいパーティを作れよ。グロリア」


 ベリルはノリノリである。本当に見ず知らずの人間と共に活動するのが嫌だったのだろう。アクティブな人見知りめ。

 何と返すべきか迷っている間に、賛同を得らたイェルドがにこやかに話を広げていく。


「お前達はどちらも高い実力を持っているし。2人という少ない人数でスタートしても問題は無いはずだ。それにネルヴァ相談所のパーティだったら、上を目指す物好きがパーティに加入してくれるだろうさ」


 ――いや、普通に今のパーティから出たくない! イェルドさん、私の事を思うなら居ていいって言って欲しい……!

 悲しいかな、心の中で思うだけでは相手に届かない。駄目押しとばかりにイェルドはグイグイと話を推し進めてくる。


「心配するな。独り立ちの為の協力は惜しまないさ。ドタバタしてしまったしな。Aランクの試験も俺がきっちり監督して、昇格できるように手を尽くそう。無いとは思うが、落ちた場合は次の試験までお前達を預かるさ」


 ――おお!? なら、試験を落ちたら今のパーティから出て行かなくていい?


「だが……グロリアが試験に落ちるところは想像できないな。はは」


 ――いややっぱり駄目だ! あり得ないレベルの期待をされてる! 落とそうものなら、凄く失望されそうな勢いだ!

 選択肢が無い。昇格試験を受けるまでは、最早決定事項だし、これだけ期待を掛けられておいてあっさり落ちましたでは肩身が狭すぎる。


「だとよ、グロリア。まあ、俺が手合わせでも何でもしてやるから、気合入れておけよ」

「……うるさい」


 ノリノリで絡んでくるベリルに思わず暴言を吐いてしまった。けれど、1年も在籍したパーティから急に出て行かなければならなくなってしまい、混乱していたので仕方ないはずだ。

 とはいえ、よく考えてみれば一から十まで自分で蒔いた種。腹を括るしかないだろう。自分で選択した末路だ。


 ――それはそれとして……やっぱり出て行くの嫌だなー!!

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