19.リーダーの苦悩(2)
「グロリア。先にお前に謝らなければならない事がある。キリュウに様子を見させていた件だ。それに関しては悪かったな、勝手に覗き見させて」
「……いえ」
「恐らく分かっているとは思うが、クエスト中に別の事を勝手に始めるのは遠慮してほしい。だが――今回においては、むしろその方がよかった可能性がある……。オフに勝手に自然公園に入られるよりはずっとましだった。相当数の変異種を討伐していて、何らかの事件に巻き込まれる可能性があったからな。尤も、結果論ではあるが」
「つまり?」
「ゲオルクさんに感謝しろ。ペナルティ等はない。一般人を保護した事にする、そうだ」
「いいんですか?」
「良くはない……。絶対に口外しないでくれ、真似する者が出ると困る」
ふん、とイェルドの話を聞いていたベリルが鼻を鳴らす。
「で? 見返りの要求は何だ」
「ベリル、お
「はん、そういう事だと思ったぜ。俺達は散々、お前らギルドに不利益を働いてきたはずだが解散すればその力は欲しいって?」
指摘に対し、イェルドは難しい表情を浮かべた。
「俺は正直、反対なんだ。《相談所》の構成員はよくよく知っている。お前が他のギルド員に暴力を振るわないとは思えない」
「身内になればそんな事にはならないかと」
話の流れが都合よくなってきたので、グロリアはそう言って口を挟んだ。確かにベリルは短気且つ凶暴で不安定だと思われがちだが、それでも事実上の仲間であれば手を上げたりはしない。
ベリルの
しかし当然、部外者のイェルドにそれが上手く伝わっていないようだ。怪訝そうな顔で首を傾げている。
「そうだろうか? うーん、俺は彼のプライベートは知らないからな……。ともかく、反対は俺の個人的な意見であって、ゲオルクさんは
「……」
「他所に行かれるのも、まあ、困るのは事実だからな……。現に《相談所》のメンバーを求めて三大ギルドで取り合う現象も起きつつある」
――うちも社会不適合者の集まりだったし、変人が多いギルドくらいにしか居場所がないのは分かるんだよね……。
しかし、断っていいが断る選択肢が絶妙に無いのも事実だ。
《レヴェリー》に加入するなら、の枕詞がずっとこの会話には付き纏っている。被害が出ないようにするとイェルドは言っているが、ベリルが断れば自分がどうなるかは正直分からない。
「ただ正直……お前達の《相談所》への未練は理解している。俺が何と言ったところで別のギルドに入るなんて――」
「いいぞ。入ろうか」
「なんて?」
「加入する。勘違いするな、お前等の為じゃない。グロリアの生活を壊したくないだけだ」
――えええ!? ベリル、誰かの為に我慢とか出来たんだね……。あんまり気にしなくてもいいのに。
吃驚発言に吃驚し過ぎて、言葉は言の葉にならなかった。
これにはイェルドも意外そうな顔をして見せる。
「それは何と言うか、思わぬ返事だな。《相談所》とはクエストの取り合いばかりしていて、攻撃的なイメージしかなかったが……。成程。お前、そういう気遣いが出来るんだな……。いや、それは嬉しい誤算だった。そういう事なら俺も歓迎するよ」
「俺を何だと思ってんだ」
「ギルドの方針で、ソロでの活動は認められていない。最悪、ただそこで遊ばせているだけの人員になってしまう事を危惧していた。が、グロリアとならば組めそうだな? 俺はお前達がどういう知り合いなのか知らない訳なんだけど」
「……」
ベリルは不機嫌そうだ。暴力的な単細胞と思われている事実に気付いてしまい、腹が立ったのだろう。
そんな事に気づきもしないイェルドの話題は、加入後に関する事務的なものへと変わる。
「それで……一応調べたんだが、ベリル。お前まさか、ランクを持っていないな?」
「何だよそれは」
「ギルド員に付けられるまあ、クエスト受注の基準みたいなものだ。因みにグロリアはBランクを持っているし、お前が攻撃したキリュウはAランクだ」
「ああ? それはどっちが高いランクなんだ」
「Aだな。今の所、ランクの最高はSになっている」
「は。お前、あのネズミよりランクが低いのかよ、グロリア。粗方、ランクを上げる方法が怠いとかそんな理由だろうが」
対し、グロリアは冷淡に応じた。
「何を言っているの。ベリルはDランクからだから、私より雑魚だよ」
「急に言い過ぎだろ……」
10年来の付き合いで紡ぎ出された憎まれ口だったが、途端にイェルドが顔を引き攣らせて黙り込む。しかし、何も起こらないと悟ると気を取り直したように話を続けた。
「やはり持っていないんだな。なら、Dランク入手後からの活動か……。はあ、試験を受けさせるのが憂鬱だ……。まあ、近くに昇格選があるから大丈夫か」
「面倒臭い事をやる必要があんのかよ。何だよランクって……」
「ランクは主に実力を測るのに使い、強すぎる魔物に挑んで死亡事故を引き起こしたりするのを防ぐ役割がある。だからギルドに所属するのなら必須だ」
癇癪を起こしそうだった元同僚をグロリアは早々に宥める。彼はこういう意味の見出せない面倒事が大嫌いなのだ。
「私も受けたけれど、1日で終わるからちゃんとして」
「ああ、ああ。うるせぇな、分かってんだよ……」
先程からイェルドの顔色があまり良くない。疲れているのだろうか。
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