18.リーダーの苦悩(1)
***
無事に――無事と言っていいのかは分からないが、ともあれベリルと合流したグロリアは、クエストを放り出す訳にもいかないので粛々と定められた道を突き進み、ようやく想定されていたゴールへとたどり着いた。
勿論、ベリルをその辺に放置していくわけにもいかなかったので同伴させている。今からイェルドに説明しないといけないのが、非常に気分が思い。今回に関しては自分の責任なので放棄する事は出来ないのだけれど。
「――すまん、グロリア。キリュウから事のあらましは聞いている。疲れている所悪いが、ギルドに戻ってから話を聞かせてくれるか? ああそちらの……保護された一般人という事になっている彼もだ……」
ゴールに到着してすぐ、リーダーに言われた言葉は上記だった。ベリルもゲストの自覚があるからか、珍しく事の成り行きを見守っている様子だ。
また、先に到着していたキリュウが出来事を説明したのだろう。イェルドは引き攣った顔をしつつも、その場では本当に何の追及もしなかった。
ついでにベリルの扱いを保護された人物で一旦受け入れる事にしてくれたのもありがたい。
***
時は進んで翌日。
グロリアはギルドの一室に、ベリルと共に待機させられていた。
というのも昨日の内にイェルドは話を聞きたかったようだが、色々と込み入っているらしく1日時間を挟む事となってしまったらしい。
そんな訳でベリルと共に部屋の一つでイェルドの時間が空くのを待っている訳である。
そのベリルだが、落ち着きは皆無。
苛々しているのはデフォルトだが、微かな物音にも反応したりして、まるで野生動物のような状態である。
「――落ち着きがないね」
暗に静かにしろ、とそういう意味で言葉を投げ掛ける。
フードを外した彼と目が合った。
「うるせえ。ああクソ、用があるならとっととしろよ……」
かつても述べた通り、ベリルは重度の人嫌いだ。人の出入りが激しい《レヴェリー》に置き去りにされるのはストレスが溜まるのだろう。
明かりを受けて鮮やかに輝く、例の珍しい角を眺める。宝石のようで綺麗だし、見ていて飽きない。視線を感じたのか、またもベリルと目が合ってしまった。
「何だよ」
「キラキラしてると思って」
「飽きないな、お前も」
昔、一度だけ触らせてもらった事がある。まさに宝石のような感触だった。《相談所》の一般的な竜人の角は生物の骨といった感触だったので、だいぶん違う。
それはいいとして。
問題は《レヴェリー》がベリルをどうしたいのかだ。また、ベリルがこれからどうするのかも気掛かりである。
一度は考えるのをやめていたが、ベリルは恐らくキリュウを負傷させてしまっている。それに自分も含め
「イェルドさんを警戒しているの?」
「誰だよ」
「私達のリーダー……。今、帰ってくるのを待っている人」
「ああ、あいつか。あいつ、多分手練れだな」
「だろうね。Sランカーだし。そうだ。大丈夫そうなら、《レヴェリー》に入る?」
「は? この流れでそれは普通に難しいだろ。お前はいつも発想が飛躍し過ぎている。まあ……知り合いがいるのなら、別組織に所属してもいいか」
「そう」
「だが、難しいぞ。俺達が《相談所》だった時にやらかした数々の不祥事があるからな。お前はまだ小さかったから知らないかもしれねぇが」
――それを突かれたら、私も解雇になる可能性があるなあ……。
それを踏まえた上で、グロリアは気持ちの上だけでは肩を竦めて応じた。
「なら仕方ないね。一緒に違うギルドに移籍しよう」
「お前……! お前、たまに驚くくらい良い奴だな……。その鉄面皮で……」
「それをされるのは困るな」
話をしていたから、ノックの音に気付かなかった。話を途中から聞いていたのだろう、部屋に戻って来たイェルドは苦笑している。
途端、ベリルは嫌そうな顔をして押し黙った。それを寛容に受け流したリーダーは、人数分の飲み物をテーブルに並べる。
「待たせて悪かったな。少し……いや、かなり俺も驚いていて、色々と整理していた。ところで昨日はよく眠れたか?」
「はい」
ベリルは応じない。他人に会うといつもこうなので、グロリアも特に気にはしなかった。
「取り合えず……キリュウの視点では、昨日何が起きていたのか分かった。片付けなければならない事がたくさんあるが、まずはそのキリュウの怪我の件だ」
「……ベリルがやらかしたやつだよ」
分かっていなさそうだったので、慌てて隣の元同僚にそう告げる。あまりぴんと来ていないようだったが、彼は賢いので自分の話をされている事くらいは理解しているだろう。
すごく気が進まないが、後でイェルドの言葉をベリルに再翻訳する必要があるかもしれない。
「キリュウの負傷は、本人ももう良いと言っているので……あくまでこの後、何事も無ければこれ以上は突かない事になった。まあ、《相談所》はもう解散しているとは言え、お前達と揉めるのは損害の方が大きいからな……」
「そうかよ」
「不遜な態度だが、お前が先に手を出したし、そもそもキリュウはお前には危害を加えていないからな……。大丈夫か、心配になってくるなこの調子だと」
リーダー・イェルドはぐったりと溜息を吐いた。内心で謝罪するが、やはり伝わらない。
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