第51話 戦場

「察しが良いな、我が子孫は。そうだ。この剣こそは『ノーティオの遺物』。そして元はフィリア・メンブルムだったものだ!」


 高らかな魔王フィデス・パルマの声に反応したのはディエスではなく、シルワに守られて少し離れた所にいたノクスだった。


「まさか……本当に存在したのか、『ノーティオの遺物』が……!」

「ノクス! 僕の魔力が効く範囲を離れるな! 中級以上の魔物がウヨウヨしているから、お前じゃ倒せないぞ!」

 ノクスの襟首を掴んで引き寄せたシルワの表情に、いつもの余裕は微塵もない。周囲の魔物の重力に干渉して、どうにか攻撃を防いでいるが、対象が多い分効力も弱い。


「殺しても殺してもキリが無い! もーっ! 何とかして! シルワ先生!」

 余裕がないのはラティオも同様か。

 ゆるふわをかなぐり捨てて、とにかく近寄ってきた魔物を片っ端から爆散している。

「無理。こっちも手一杯」

「キーッ!! シルワ先生は学園の生徒だった時からそう! いくら顔面が良くったって、いざという時に使えない男なんだから!」

「文句なら生き残ってから聞く」

「だったら最後まで立ってなさいよ! 爆散っ!!」


 魔物の大群に対処している彼らの魔力も、無限ではない。

 結界は壊れ、高位の魔物が魔界の入り口から湧き出すように地上に溢れている。



「負傷者は撤退せよ! 生きているグラキエス騎士団は我——メテオラ・クラウストラに続け! これ以上魔物の侵略を許すな! 魔石の使用も惜しむな!! この戦いに勝利せぬ限り、グラキエスの——いや、このアウローラ大陸に未来はないものと知れ!!」


 グラキエス王国の王太子メテオラが、騎士団員を力強く鼓舞する。

 白かったウサ耳は血で汚れ、モノクルは戦闘中に落としたのか着けていなかった。

馬上から群がる魔物たちを魔具の剣で薙ぎ倒しているが、何しろ数が多い。


 メテオラ率いるグラキエス騎士団に狙いを定めたように、魔物たちが集中している。このままでは数に押されて、いずれ彼らは殺されてしまう!


 ———と、そこに二つの影が躍り出でた。


「ハッ!!」

「助太刀します! メテオラ殿下!」


 ノッツェの鋼のような拳が魔物を宙に舞上げ、フェールの剣がメテオラに襲い掛かろうとした魔物を弾き飛ばす。

 メンブルム騎士団の団長と副団長のコンビネーションは抜群だ。


「かたじけない。フェール団長、ノッツェ副団長」

「困った時はお互い様です。この場は両国の騎士団が一丸とならねば、乗り越えられません」

「ああ、そのようだ。面子より命の方が大事だ。では———お前たちグラキエス騎士団に告ぐ! これよりはアルカ王国騎士団との共同戦線だ! 第一に魔物たちを倒しつつも自分たちの命を守れ! 第二に国民の隔てなく、負傷者は率先して救護しろ! いいな、如何なる時もグラキエス騎士団の誇りを忘れるな!」

「オーッッ!!」

 メテオラ王太子の言葉に、グラキエス騎士団員たちは鬨の声を上げる。

 良かった。

 状況は最悪だが、みんなの心はまだ折れてない。


「………他国と協力するなど、私が在位していた時代では考えられないことだな」


 この血みどろの戦場にそぐわない声で、ポツリと魔王が呟く。

 不遜な態度は鳴りを潜めて、今の彼を言い表すのなら、虚無だ。


 ジロリと、魔王の鮮血の瞳が俺を見下ろす。


「いいだろう。フィリア、お前に見せてやろう。私と偉大なる魔法使いノーティオの真実を」


 ————不意に俺の視界が乱れる。


 一瞬真っ暗になった後、次に現れたものはここアンゴル大峡谷ではない、ノーティオ魔法学園の中だった———

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