第32話 後夜祭

 ついに星綾祭最後のイベントである後夜祭の時間がやってきた。

 最近はそもそも後夜祭が存在しない高校も多いらしいが、星綾高校はこの地域の高校としては珍しく未だに実施している。

 後夜祭は体育館と校庭の2つを使って開催され、体育館では軽音部によるライブやカラオケ大会、漫才などのステージ発表を行い、校庭では最後の締めとしてキャンプファイヤーの周りでダンスを行う。


「ついに星綾祭も終わりか。あっという間でしたね」


「う、うん。そうだね」


「……ああ」


 俺は美菜先輩と恵美と一緒に体育館でステージ発表を見ているわけだが、2人ともさっきからずっと上の空な様子だった。

 閉会式が終わった後、2人で何やら話していたはずだが、帰ってきてからずっとこんな調子であり様子が変なのだ。

 心配になった俺が何かあったのかを尋ねてみたりもしたが、2人は口を閉ざしてしまい何も教えてくれなかった。

 2人がこんな調子なので本来は楽しいはずのステージ発表が全く頭に入ってこない。

 結局、あっという間に2時間が経過しステージ発表は終わりとなった。

 それから俺達は体育館を出てキャンプファイヤーを見るために校庭へと移動を始める。

 校庭に行くと真ん中ではキャンプファイヤーが既に燃え始めていた。

 恐らく星綾祭実行委員会のメンバー達が、ステージ発表の終わるタイミングを見計らって点火したのだろう。

 辺りが暗くなり始めているという事もあって、キャンプファイヤーの光は遠く離れた体育館からでもはっきりと目立っていた。


「じゃあ俺達も行きましょう」


 相変わらず様子のおかしい2人に声をかけて、俺達は他の生徒達と一緒にキャンプファイヤーへと向かおうとするが、美菜先輩から止められる。


「ちょっと待って欲しい」


「……ねえ、和人君知ってる? 星綾祭のキャンプファイヤーでフィナーレの瞬間に一緒に踊った男女は生涯を添い遂げる縁で結ばれるらしいよ」


「ああ、知ってる。うちの高校でも有名な伝説の1つらしいな」


 キャンプファイヤーの伝説はかなり有名な話らしく、星綾祭が始まる前は学内でもその話題で持ちきりになっていたくらいだ。

 俺は正直あまり信じていないが、実際に結婚したカップルが何組もいるという話を聞くとあながち嘘ではないのかもしれない。

 そんな事を考えていると、美菜先輩が真面目そうな顔で話し始める。


「……私と河上はその伝説を本気で信じているし、実は一緒に踊りたい相手もいるんだ」


「その踊りたい相手が不幸な事に私も美菜さんも同じだったんだよ。だから閉会式が終わった後、2人でどうしようか話してたの」


「ああ、フィナーレの瞬間一緒に踊れるのは1人しかいないからな」


 なるほど、2人の様子がさっきからおかしかった理由がようやく分かった。

 そこまで話すと美菜先輩と恵美は顔を見合わせた後、覚悟を決めたような顔となり同時に話し始める。


「……だから私と一緒に踊ってくれないか、和人」


「……だから私と一緒に踊ってくれないかな、和人君」


 なんと美菜先輩と恵美の2人は俺にそう求めて来たのだ。

 これは2人から同時に告白されたと言っても過言ではない。


「……和人君がどっちを選んだとしても私達は恨みはしないよ」


「だが、私達の関係が壊れるというしょうもない理由でどちらも選ばないという真似だけは絶対に辞めてくれ」


 2人の顔は今までかつて見たことが無いくらい真剣だ。


「私と美菜さんは先にキャンプファイヤーの前に行って待ってるよ。和人君は私か美菜さんのどちらかの手を取ってね」


 そう言い残すと2人は俺をその場に残してキャンプファイヤーの方へ歩いて行ってしまう。


「……やっぱりそうだったんだな」


 はっきり言って2人からの好意にずっと前から俺は薄々勘づいていた。

 特に未来から夏海ちゃんがやってきた辺りから積極的なアプローチが始まった事もとっくの昔に気づいている。

 だが美菜先輩が言っていたように3人の関係を壊したくなかった俺はずっと気付かないふりをしてきた。

 しかし、それも今日で全部終わりになってしまうようだ。


「そうだよな、いつまでも先延ばしにできない事なんか初めから全部分かってたんだから」


 いよいよ俺も今の関係を終わらせる覚悟を決めなければならない。

 俺の心は既に決まっている、後は俺自身で大きな一歩を踏み出すだけだ。

 

「よし、行こう」


 覚悟を決めた俺は体育館の前からキャンプファイヤーの方に向かって歩き始めた。

 そしてキャンプファイヤーの前で下を俯き目をつぶって待っていたの手を取った。

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