第30話 星綾祭2日目

「じゃあ、行こうか」


「そうしよう」


 星綾祭の2日目、俺は約束通り恵美と学内を回り始める。


「それでどこから行く?」


「そうだね、まずは美術部の展示を見に行かない? そこには私の作品もあるからさ」


「恵美の作品がどんなのか気になるし、そうしよう」


 俺達はまず美術部の展示を見るために美術室へと向かい始める。

 到着するとそこにはたくさんの風景画や人物画、イラストなどが飾られていた。

 俺はそんな作品達を恵美と一緒に見て回りながらつい言葉を漏らす。


「凄い、どの絵もめちゃくちゃよく描けてるな。流石美術部って感じだ」


「私を含めてみんな星綾祭に向けて一生懸命描いた作品ばかりだからクオリティは高いよ」


「ちなみに恵美の描いた絵はどれなんだ?」


「私の描いた絵はこっちにあるよ、着いてきて」


 恵美に案内されて着いていくと、1枚の風景画の前へ到着する。


「これって夏休みに行ったユニバースランドじゃん。へー、よく描けてるな」


「あっ、やっぱりすぐ分かるよね。ユニバースランドへ行った時に撮った写真から描いたんだ」


 風景画の中には見覚えのある特徴的なジェットコースターや観覧車などのアトラクションがリアルに描かれていたため、すぐにユニバースランドだと分かった。


「凄く上手に描けてるな。これを見てるだけであの日の光景が頭の中に浮かんでくるよ」


 絵をそう褒めると恵美は少し照れたような表情で口を開く。


「えへへ、和人君からそう言って貰えるなら私も頑張って描いたかいがあったよ」


 しばらく2人で絵を見て回った俺達は美術室を後にする。


「次は1年生の展示を見に行こうよ」


「了解だ。それでどこに行く?」


「私は1年5組のお化け屋敷に行きたいな」


 パンフレットを見ていた恵美はニコニコしながらそんな事を口にした。

 お化けが大の苦手であり、どうしても行きたくなかった俺は考え直すように説得を開始する。

 ちなみに美菜先輩も俺と同じくお化けが苦手なため、昨日は完全にスルーしていた。


「お、お化け屋敷は辞めとかないか? 恵美が満足できるクオリティとも限らないんだしさ」


「だから楽しみなんじゃない、行こうよ」


 だが恵美は行く気満々のようでどれだけ説得しても無駄な事を俺は悟る。


「……分かったよ、行こうか」


「ありがとう、じゃあ今すぐ行こう」


 しばらくして1年5組の教室の前へと到着したわけだが、教室はかなりおどろおどろしい雰囲気に包まれていた。


「教室の前も結構力を入れて作ってるね」


「……そ、そうだな」


 楽しそうな様子の恵美とは対照的に俺の表情はきっと死んでいるに違いない。

 中から女子生徒の悲鳴が聞こえてきている事を考えると、俺が予想していたよりも遥かに怖い可能性がある。

 入る前から帰りたい気持ちになる俺だったが、今更入りたくないとは言えるわけもなく、大人しく順番待ちの列に並ぶ事になった。

 ちなみにこのお化け屋敷は教室の端にある祠からお札を外に持って出るという流れになっている。

 待つ事数十分して俺達の番になったため中に入ったわけだが、教室の中は薄暗く血のりのついたお札がいたるところに貼ってあったりBGMにお経が流れているたりと、かなり怖い雰囲気が出ていた。

 俺達は教室内に作られた通路をゆっくりと進み祠を目指し始める。


「へー、中もかなり作り込まれてるね」


「……そうだな」


「想像していた以上のクオリティだよ」


 恵美は色々と話しかけてくるが、恐怖を感じている俺は正直それどころではない。

 それから天井から落ちてきた生首に驚いたり、突然雷の音が教室中に鳴り響いてびっくりしているうちに中間地点の祠へと到着した。


「後はこれを外に持ってでればゴールだね」


「やっと外に出れる……」


 お化け屋敷が半分済んだ事に安堵していた俺だったが恵美がお札を取った瞬間、祠周辺から伸びてきた無数の手に驚かされて恵美に抱きついてしまう。


「うわ!?」


「ち、ちょっと和人君!?」


 恵美は俺に突然抱きつかれた事で顔を真っ赤にして軽いパニックを起こしているようだったが、そんな事を気にしている余裕など一切無かった。

 俺は恵美の手を取ると通路を駆け出して出口へ向かって走り始める。

 途中、色々な仕掛けに脅されたりもしたが一気に駆け抜けたため全く記憶に残っていない。


「和人君、大丈夫……?」


「ああ、やっと落ち着いてきたよ」


 教室の外に出てしばらくの間ぐったりしていた俺だったが、ようやく元気を取り戻してきた。

 冷静になった俺は恵美にとんでもない事をしてしまったと気付き謝罪をする。


「……さっきは突然抱きついたりしてごめん」


「いいよ、わざとじゃないって知ってるし」


 そう言いつつも恵美はさっきの事が恥ずかしいのか、ほんのりと顔を赤らめていた。

 気まずい空気になってしまったため、俺は強引に話題を変える。


「それより、そろそろお昼の時間だから昼ごはんにしない?」


「そうだね、そうしようか」


 昼食を食べるために俺と恵美は学内にある食堂へ移動するわけだか、注文して食べ終わる頃にはさっきまで感じていた気まずさは完全になくなっていた。


「次はどこに行こう?」


「他のクラスの演劇がちょっと気になるし、それを見に行こう」


 俺の提案に特に異論の無かった恵美は賛成する。


「OK、じゃあ体育館に移動しよう」


 こうして俺達は星綾祭2日目が終了する時間になるまで2人で学内を回るのだった。

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