第29話 星綾祭1日目②
制服に着替え終わり柔道場を出た俺は一度教室に戻って荷物を置くと、美菜先輩との待ち合わせ場所である中庭のベンチへ向かい始めた。
「多分先に来て待ってるだろうし、何かお土産でも買っていこう」
俺は中庭の近くにあった自動販売機で美菜先輩が好きそうな紙パックのフルーツミックスジュースを購入する。
そして中庭に到着すると予想していた通り既に美菜先輩はベンチに座ってスマホをいじりながら待っていた。
「美菜先輩、お待たせしました」
「おお、和人か。シンデレラの演劇見させてもらったがやっぱり似合ってたな」
「……正直褒められてもあまり嬉しくは無いですけど、一応ありがとうございますとは言っておきます。あっ、これどうぞ」
そんな会話をしつつ、俺は先程自動販売機で買ったジュースを手渡す。
「これは私が好きなジュースではないか。ちょうど喉が乾いてたんだ、ありがたく貰うよ」
よっぽど喉が乾いていたのか、美菜先輩はジュースを受け取ると一気に飲み干してしまった。
「よし、そろそろ行こうか」
「そうしましょう、どこに行きます?」
「とりあえず1年生のクラス展示を見て回ろう」
美菜先輩の提案に特に異論なかったたため、俺達は早速1年生の教室へと向かい始める。
「今年はどんな展示をしてるんだろうな」
「パンフレットを見てないので全然知らないですけど、凛花のクラスの1年8組はプラネタリウムをやってるらしいですよ」
「それは楽しみだな。まずはそこから行こう」
そして1年8組に到着した俺達は受付で名前を書いて教室へと入っていく。
中に入ると俺達以外に人の姿は無かったため2人でゆっくり楽しめそうだ。
「なるほど、これは綺麗だな」
「ですね。思ったよりも本格的ですし結構見応えがあります」
教室の天井には満点の星空が投影されていて、学校の教室とは思えない幻想的な空間が形成されていた。
「あれがはくちょう座のデネブ、あっちがわし座のアルタイル、あそこにあるのがこと座のベガで、3つの星を結んだのが有名な夏の大三角だ」
「へー、美菜先輩って結構物知りですね。自分は星にはあまり興味が無いので全然知りませんでした」
星の解説を得意げな顔でする美菜先輩に対して俺はそう褒め言葉をかけると、嬉しそうな表情で口を開く。
「ふふっ、実は昔から星を見るのが好きでな。よくベランダから夜空を眺めていたのだよ」
「そうだったんですね」
俺と美菜先輩はかなり長い付き合いがあるわけだが、知らない一面があるという事を実感させられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく美菜先輩の星座に関するうんちくを聞きながら2人でプラネタリウムを見ていたわけだがトラブルが発生してしまう。
「きゃっ!?」
なんと美菜先輩が床に垂れ下がっていた遮光カーテンに滑って転けそうになってしまったのだ。
教室の中は基本的に真っ暗であり、足元にあった遮光カーテンの存在に気付くことができなかったらしい。
咄嗟に横から支えようとしたが視界が悪かった事もあり俺もバランスを崩して2人で仲良く床に倒れてしまう。
ただし俺が美菜先輩の下敷きになったため被害は最小限に食い止められた。
だがここで新たな問題が発生している事に俺は気付く。
「……和人がクッションになってくれたおかげで助かったよ。体の方は大丈夫か?」
「俺の方は大丈夫なんですけど、この体勢を万が一誰かに見られたら相当やばい事になるので早く退いてもらえませんか?」
「この体勢……?」
俺の指摘を聞いてようやく今どんな体勢になっているのか美菜先輩は気付いたらしい。
そう、仰向けに倒れている俺の股の上に美菜先輩が密着して覆いかぶさって座るような体勢になっているのだ。
美菜先輩は何やら叫び声を上げると恥ずかしくなったのか勢いよくその場に立ち上がった。
「す、すまない。ま、まさかこんな体勢になってるとは思わなくて」
暗くよく見えないが恐らく美菜先輩の顔は真っ赤になっているに違いない。
その後、叫び声を聞きつけて中に入ってきた受付の1年生に遮光カーテンが危ない事を伝えると俺達は1年8組の教室を後にした。
ちなみに美菜先輩の顔は俺が予想していた通り真っ赤になっていたのは言うまでもない。
「……全く、酷い目にあった」
教室から出て数分経ちようやく顔の赤みが引いてきた美菜先輩の言葉に俺は適当に相槌を打つ。
「お互いにさっきの事は忘れよう、いいな?」
「……そうですね、分かりました」
さっきの出来事は強烈過ぎて正直忘れられそうに無かったが、今の状況ではそう答えるしか無かった。
「じゃあ気を取り直して次の場所へ行きましょう」
「そうだな、それで次はどこへ行く?」
俺はどこへ行こうかしばらく考えてからゆっくりと答える。
「……とりあえず次は1年1組の展示に行きませんか?」
「了解だ、今度はどんな展示が待ってるか楽しみだな」
それから昼食なども挟みつつ、俺達は夕方になるまで2人で楽しく学内を回り星綾祭の初日を楽しむのだった。
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