第28話 星綾祭1日目①

「じゃあ行ってきます」


「ママ、夏海ちゃん、行ってくるね」


「2人とも行ってらっしゃい」


「パパ、凛花お姉ちゃん、行ってらっしゃい。夏海もおばあちゃんと一緒に見に行くから」


 いよいよ星綾祭初日となった今日、俺と凛花は家を出て雑談をしながら自転車で学校へ向かい始めた。


「ついに今日が星綾祭の本番か」


「まだまだ先の事かと思ってたけど、今思えばあっという間だったわね」


「それは俺も思う」


 夏休みの補習後期から星綾祭の準備を始めていたわけだが、確かに凛花の言う通りあっという間だった気がする。


「そう言えば凛花のクラスの展示は一体何をやるんだ?」


「うちのクラスはプラネタリウムよ。クラスの窓を遮光カーテンで覆って教室の中を真っ暗にして、投影機で天井に投影するの」


「へー、なかなか良さそうだな。また空き時間に見に行くよ」


 雑談をしているうちに学校に到着した俺達は、靴箱で別れて教室へと向かう。

 教室に着いた俺が席に向かっているとニヤニヤとした表情の賢治から声をかけられる。


「おっ、今日の主役の和人じゃん。おはよう」


「おはよう、賢治。それより今日の主役って呼び方は恥ずかしいからやめろ」


 確かに演劇でシンデレラ役を演じる俺は主役に違い無いが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「じゃあ2年5組のメインヒロインって呼び方の方がいいか?」


「その呼び方はもっと嫌だな。それ以上言うなら賢治とは絶交する事も検討しないといけなくなるな」


「おいおい冗談だって、そんなに怒るなよ」


  相変わらずおちゃらけた口調の賢治だったが、絶交という言葉が効いたのかそれ以上は言ってこなかった。

 自分の席に着いてしばらくするとホームルームが始まり星綾祭に関する伝達事項が担任から伝えられる。

 特に大きな予定の変更などは無かったため俺には関係なさそうだ。

 それが終わった後は体育館へと移動して舞台裏で演劇の衣装に着替え始める。

 俺のクラスの演劇が星綾祭文化の部の体育館で行う発表のトップバッターなのだ。

 練習の時とは違い多くの観客の前で女装姿を披露しなければならないのは中々緊張するが、これが最後という安心感もあって変な感覚にさせられている。


「和人君、頑張ってね」


「和人、ガンバ」


「水瀬君なら大丈夫だよ」


「ああ、頑張ってくる」


 恵美や賢治、他のクラスメイト達からエールを貰った俺はそう言い残すと演劇の配置につく。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 それから数十分後、無事に演劇が終わった俺は体育館の隣にある柔道場で水分補給をしながら休んでいた。


「……ようやく終わった、マジで緊張した」


 演劇の途中、王子様役のクラスメイトよりも明らかに身長の高いシンデレラに対して一部の観客からツッコミが入った時はちょっと心配になったりもしたわけだが、基本的には反応が良かったので一安心だ。


「和人君、お疲れ様」


「みんなシンデレラが可愛かったって言ってたよ、良かったね」


「この反響なら演劇の部で1位を狙えるかもな」


 クラスメイト達はみんなやり切ったような表情をしており、辺りは軽くお祭り騒ぎとなっていた。


「じゃあ後は全員で記念写真を撮ったら解散にしようか」


 担任からの掛け声で柔道場に整列した俺達はクラスメイト全員で集合写真を撮り始める。

 シンデレラ役の俺は当然強制的に一番真ん中に並ばさたわけだが特に文句は無かった。

 写真撮影を終えた後、衣装から制服に着替えていると賢治から声をかけられる。


「和人はこの後予定はあるのか? 無かったら一緒に1年生のクラス展示を見て回ろうぜ」


「悪いな、もう既に先約があるんだ」


「……ひょっとして河上さんと一緒に回るのか?」


 俺の言葉を聞いた賢治はしばらく考えた後、そう聞いてきた。

 どうやら恵美と一緒に学内を回ると思われているようだ。

 あまり話したくはなかったが、勘違いさせたままにしていると後々面倒な事になりそうだと思った俺は正直に答える事にする。


「いや、美菜せんぱ……西条先輩と一緒に回る予定だよ」


「なに、あの背の高い美人な先輩と一緒に回るだと!? このリア充め、今すぐ呪われてしまえ」


 賢治はそう吐き捨てると、俺をその場に残したまま柔道場から出て行ってしまう。


「そんな反応をされそうだったから賢治には言いたくなかったんだよな……」


 俺は誰もいなくなった柔道場の中で静かにそうつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る