第27話 星綾祭前夜

 恵美とショッピングに行ってからあっという間に1週間が経過し、気付けば星綾祭前日の夜となっていた。

 前日という事で今日は一日中授業も無く、各々星綾祭の準備をする日だったのだ。

 必要な準備を終えた俺は美菜先輩と恵美と一緒に帰りながら雑談をしている。


「ついに明日から星綾祭か、楽しみだな」


「ですね、美菜さんにとっては最後の星綾祭ですから精一杯楽しんでくださいよ」


「そうか、3年生の美菜先輩にとっては今回で最後になるのか。じゃあ来年からはちょっと寂しくなりますね」


 俺が少し寂しそうな表情でそう話すと美菜先輩は心配は不要だと言いたげな顔になって口を開く。


「来年はOGとして参加するつもりだから和人も河上も別に寂しがる必要は無いぞ」


「……ところでさっきから気になったんですけど、いつから和人君と美菜さんはお互いを名前で呼び合うようになったんですか?」


 恵美がその場に立ち止まって訝しむような表情で俺達の事を見つめていると、美菜先輩は怪しげな笑みを浮かべながら恵美に向かって話し始める。


「この間、体育倉庫に閉じ込められた時にあってな」


「色々……って、まさか美菜さんが和人君に告白して付き合い始めたんじゃ!? でも美菜さんって結構ヘタレだから自分から告白なんてしないような気がするけど……いや、暗い密室に男女2人で閉じ込められたなら何か起こっても不思議じゃないよね、うーん……」


 美菜先輩の含みのある意味深な発言を聞いた恵美は顔色を急に変えて小さな声でぶつぶつと何かをつぶやきはじめてしまう。

 完全に自分の世界へ入ってしまっている恵美に冷静な顔で説明する。


「美菜先輩、恵美をからかうのはやめてください。呼び方を変えたのは10年近くも関わりがあるのにいつまでも西条先輩って呼び方じゃ他人行儀すぎるって話になったから変えただけだよ。別に体育倉庫の中では特に何もなかったからな」


「……そうだよね。和人君って昔から単純で顔に出やすいタイプだったから、もし何かあったならもっと挙動不審になるはずだよね」


「なんだ、もっと慌てるとかと思っていたのに残念だよ」


 ほっとした顔をする恵美とは対照的に美菜先輩はつまらなさそうな表情をしていた。

 それから再び歩き始めた俺達は明日の星綾祭文化の部についてを話し始める。


「そう言えば2年生は演劇をやるんだよな、和人達のクラスは何をやるんだ?」


「うちのクラスはシンデレラですよ。他のクラスはオリジナルのストーリーを考えてやるようなところもあるみたいですけど」


「そうなのか。私のクラスは去年人魚姫だったから、やはり童話を題材にした劇は毎年人気なのだな」


 そんな事を2人で話していると、ニヤニヤした表情の恵美が横から口を挟む。


「和人君がシンデレラ役なんですよ。だから美菜さんも精一杯応援してあげてくださいね」


「なに、それは本当なのか?」


「……ええ、残念ながら本当です」


 美菜先輩には知られないよう隠すつもりだったのだがあっさりとバラされてしまったため、俺は横目で恵美を睨みつけながらそう答えた。

 だが恵美はそんな俺の視線を一切気にする事なくポケットからスマホを取り出すと、画面を美菜先輩に見せ始める。


「ちなみにこれが和人君のシンデレラ姿です。似合ってると思いませんか?」


「凄いな、めちゃくちゃ似合ってるじゃないか。他の写真はないのか?」


「ありますよ、これなんてどうですか?」


 2人は完全に俺を放置して女装写真で盛り上がり始めてしまう。


「全く、俺が女装した姿の何が面白いんだか……」


 俺は2人の盛り上がる様子をみて呆れ顔でそうつぶやいた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 しばらく3人で雑談して歩いているうちに美菜先輩の家の前へと到着したため今日はこれでお別れになりそうだ。

 そんな事を考えていると家に入ろうとしていた美菜先輩が突然立ち止まって俺に話しかけてくる。


「あっ、そうだ。和人は明日演劇が終わった後予定は空いてるのか?」


「一応空いてますけど」


「よし、なら明日は私と一緒に学内を回ろう。また詳しい事は後でメッセージするから」


 美菜先輩は有無を言わさず一方的にそう言い残すと満足そうな表情で家の中へと入っていった。

 するとそんな様子を隣で見ていた恵美がめちゃくちゃ悔しそうな表情で何かを喋り始める。


「……やられた、私が和人君を誘うか迷ってる間に先に誘われるなんて。まさか美菜さんがここまで積極的になるとは思ってなかったし、完全に油断してたな」


「おい、どうした?」


 小声過ぎて何を言ってるのかよく聞こえなかったためそう問いかけると、恵美は我に返ったらしく俺の方を向く。


「和人君、明後日は空いてる?」


「う、うん」


「なら明後日は私と一緒に学内を回ろう。約束だよ」


 恵美は強い口調で一方的にそう言い残すと俺をその場に残して走って帰ってしまった。


「……本当は賢治達一緒に適当に過ごそうと思ってたけど、美菜先輩と恵美から頼まれたんじゃ断れないよな」


 どうやら今年の星綾祭は去年よりも忙しくなりそうだ。


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今まで毎日更新していましたが書き溜めが無くなってしまったので次話以降更新の速度が低下します。

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