第10話 試験勉強

 球技大会が終わってから数週間が経過し、いよいよ夏休み前の期末テスト期間となっていた。

 今日は恵美から俺の家で勉強を教えてもらう予定となっているため帰るのは一緒だ。

 高校生になってからは家で勉強を教えてもらう事は無かったが、今回は恵美から教えてあげると提案されたので一緒に勉強をする事になっていた。


「和人君と2人で帰るのは結構新鮮だね」


「確かに、恵美と一緒に帰るのはめちゃくちゃ珍しいな」


 帰宅部の俺に対して恵美は美術部に所属しており基本的に帰る時間全然違うため、2人で一緒に帰る事は無いのだ。


「和人君は理系科目が苦手だったよね。前回の中間テストではどうだったの?」


「数学があんまりできないから文系を選ぶくらいには苦手だよ。えっと、確か理系科目は平均点を少し下回るくらいの点数だった気がする」


「それは頑張らないとね。分からないところは私がしっかりと教えてあげるから」


 恵美はかなり張り切った様子で俺にそう話しかけてきた。

 ちなみに恵美は学年の中でもトップクラスの成績を誇っているため、俺に勉強を教える事など朝飯前らしい。

 家に到着した俺達は出迎えてくれた夏海ちゃんに挨拶をすると部屋に上がって早速勉強を始める。

 苦手な理系科目の、特に苦手意識を持っている数学IIBや化学基礎を恵美から教えてもらう。


「この問題はさっき教えた公式に当てはめれば解けるよ」


「なるほど、そうやって解けば良いのか」


「そうそう、その調子だよ」


 勉強を始めてからしばらくの時間が経ち、教科書に沿って数学IIの問題を解いていると扉がノックされて夏海ちゃんが部屋に入ってきた。

 手にはお盆を持っていて、その上にはお茶とお菓子が乗せられていたのだ。


「パパ、恵美お姉ちゃん、差し入れを持ってきたよ」


「ありがとう夏海ちゃん」


 俺は夏海ちゃんに一言お礼を言ってお盆を受け取る。


「せっかくお茶とお菓子が来たんだし、一旦休憩にしようか」


「そうだな、そうしようか」


 俺達は一旦勉強の手を止めて少しだけ休憩をする事にした。


「ところで和人君って、大学はどこを狙ってるの?」


「国公立はまだ考えてないけど、私立なら平成大学と学習館大学辺りが第一志望、西洋大学と日ノ本大学辺りが第二志望で考えてる」


 俺の志望している平成大学と学習館大学は世間一般的にいう難関私立大学であり、西洋大学と日ノ本大学は中堅私立大学に属する。


「へー、そうなんだ。私は私立なら早穂田大学と慶欧大学を狙ってるんだ」


「めちゃくちゃ難関大学じゃん。まあ、恵美なら余裕そうな気がするけど」


 お茶とお菓子を食べながら雑談していると大学の話になったため、俺達はそれぞれ志望大学について話していく。


「それにしても私達も将来はどうなってるんだろうね」


「俺の場合は夏海ちゃん曰く、普通に大学に進学して就職もして結婚までしてるらしいけど、あくまで夏海ちゃんがいた世界の話だからな」


 パラレルワールドという言葉があるように夏海ちゃんのいた未来は可能性の1つでしか無いのだ。

 そのためその未来の話を信じきって何の努力もしなければ間違いなく悲惨な事になるのは目に見えている。


「それでも可能性とは言え、未来が分かるって凄いアドバンテージな気がするけどな」


「まあ、それは確かに間違いない」


 本来なら未来から自分の子供がやって来て可能性とは言え未来の情報を得る事などあり得ないため、俺はめちゃくちゃ幸運な人間と言えるだろう。


「あっ、もうこんな時間じゃん。そろそろ勉強を再開しない?」


「あっ、本当だ。休憩し過ぎちゃったし、そうしようか」


 いつの間にか結構な時間が過ぎている事に気付いた俺はそう提案し、恵美も同意したため勉強を再開する。

 それからしばらく2人で勉強を続けて、気付けば家の外が暗くなり始めていた。


「暗くなってきたし、そろそろ私は帰るね」


「オッケー、今日は勉強を教えてくれたおかげで助かったよ。ありがとう」


 俺が感謝の言葉を伝えると恵美はにこやかに口を開く。


「どういたしまして。また分からないことがあったらいつでも聞いてね」


「あっ、せっかくだし家まで送っていくよ」


「ありがとう、じゃあよろしくね」


「恵美お姉ちゃん、ばいばい」


 俺達は夏海ちゃんに見送られながら家の外へ出て行った。

 そして恵美と一緒に2人で並んでゆっくりと夜道を歩き始める。


「そう言えば夏海ちゃんは何かママの事を思い出したりはしてないの?」


「うーん、この間色々と質問してみたけどママの事に関してはまだほんとんど思い出せないみたい」


「そうなんだ……夏海ちゃんって若干私にも顔が似てる気がするから多分私の子供だと思うけど、何か決定的な証拠が欲しいところだね」


 途中から何を言っているか声が小さ過ぎて全く聞こえなかったが、真剣そうな顔を見ると何か大切な事を考えているに違いない。


「あっ、危ない!?」


 恵美は考え事をしながら歩いていたせいか足元の段差に気付かず転けそうになってしまう。

 だが間一髪俺が前から咄嗟に抱きしめるような形で受け止めて転ぶのを防いだ。


「和人君、ありがとう……でもそろそろ恥ずかしいから離して欲しいな」


「ご、ごめん」


 顔をゆでだこのように顔を真っ赤に染めた恵美からそう言わて今の状況を理解した俺は釣られて顔を赤くする。

 結局、恵美の家に到着するまで俺達は2人して顔を真っ赤に染めたままだった。

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