第9話 小学生の頃の約束

 西条先輩とふれあい公園へピクニックに行ってから数日が経過していた。

 今日俺達2年生は1日中球技大会の日であり、授業が無い日となっている。


「バレーボールか……俺サーブとか苦手なんだよな」


「凄い切実な悩みじゃん、まあ気持ちは分からなくもないけど」


 俺のつぶやきに対してそうツッコミが入るが、イラッとした気持ちさせられて口を開く。


「おいおい賢治、バレー部の奴が俺の気持ちなんて分かるわけないだろ」


「ごめんごめん、でも昔は俺もサーブが苦手だったから嘘はついてないさ」


 おちゃらけた口調で俺に話しかけてきたのはクラスメイトの前原賢治まえばらけんじだ。

 賢治は中学時代からの友達であり、同じクラスになったためよく連んでいる。


「本当かよ……? まあ、とりあえず体操服に着替えようぜ」


「よし、そうしよう」


 俺と賢治は男子の臨時更衣室として指定された隣の空き教室で体操服に着替え始める。

 それから校庭に出て2年生のクラス対抗男女別の球技大会がスタートした。

 サーブが苦手な俺はアンダーハンドサーブで確実に相手のコートにボールを入れてチームに最低限の貢献していく。

 一方運動神経抜群でバレー部の賢治はフローターサーブで相手コートにボールを叩き込んで着実に点を取る。

 俺達のチームはバレー部の賢治がいたおかげか連戦連勝で勝ち進んでいく。

 それから試合の無い空き時間にチームメンバー達とクラスの女子チームの試合を見ていると、隣にいた賢治が話しかけてくる。


「なあ、和人、お前河上さんと付き合ってるのか?」


「……どうしたんだよ賢治、突然そんな事を聞いてきて」


「いや、最近急に前よりも仲良さそうになったじゃん。クラスでも結構噂になってたから気になってさ」


「えっ、そうなのか!?」


 なんと、いつの間にかクラスの中で俺と恵美の事がクラスで噂になっているらしい。

 まあ、最近ではクラスで一緒に行動する事が明らかに増えたので噂になっても仕方が無い気がする。


「いや、付き合っては無いよ」


「マジ? 絶対付き合ってると思ってたわ」


 どうやら賢治も俺と恵美が付き合っていると思っていたようだ。


「恵美と最近仲が良いのは、うちに住んでる親戚の子供と恵美の仲が良いからだよ」


「親戚の子供? 和人にそんな子いたっけ?」


「ちょっと前から預かって一緒に住んでるんだよ」


 夏海ちゃんが俺の子とは言えないため、とりあえず親戚の子供として説明した。


「そうなのか、河上さんとは付き合っては無いんだな。じゃあお前が時々一緒に帰ってる背の高い先輩はどうなんだよ?」


 よく一緒に帰っている背の高い先輩とは恐らく西条先輩の事だろう。


「その先輩も恵美と同じ理由だよ。小学生の頃習ってた習い事が一緒だから元々仲が良かったのに加えて、さっき話した親戚の子供と仲が良いから俺と話す事が増えたんだよ」


「おいおい、まじか……俺も親戚の子がいれば女子と仲良くなれるかな?」


「もしかしたらなるかもな。ほら、そろそろ次の試合だから行くぞ」


 羨ましそうな目で俺を見つめてくる賢治にそう声をかけると、次の試合のコートへと向かい始めた。

 そして次の試合が始まったわけだが、いきなりトラブルが発生する。


「痛えっ」


 なんと俺はレシーブした際に盛大に転けてしまい、膝を擦りむいてしまったのだ。


「和人君、大丈夫!?」


 するとすぐに近くで試合を見ていた恵美がすっ飛んでコートの中へ駆けつけてきた。


「……和人が試合を続けるのは無理そうだな。悪いけど河上さん、俺達は試合で離れられないから代わりに和人を保健室へ連れて行って貰えるか?」


「うん、分かった」


 賢治からそう促された俺は恵美と一緒に保健室へと向かい始める。


「和人君、足は大丈夫? 肩貸そうか?」


「ああ、ちょっと転んだだけだよ。別に大した事はないから肩は貸さなくても大丈夫」


 別に肩を貸されるほど足が重症では無いと感じた俺はそう答える。


「こんな事前にもあったよね。小学校の時、ドッジボールをしてたら和人君が転んで保健室まで連れて行った記憶があるよ」


「……そんな事もあったな。確か小2くらいの時じゃなかったっけ?」


 恵美の話を聞いて昔の事を思い出した俺はそう口にした。


「だね、小学2年生って言ったら夏海ちゃんと同じくらいだよね。あの時は和人君、泣いてて可愛かったよ」


「よ、余計な事は思い出さなくていいから」


 黒歴史を掘り返されて恥ずかしい気分になった今の俺は、恐らく顔が真っ赤になっているに違いない。


「そう言えば、小学生の頃2人でした約束ってまだ覚えてる?」


「約束……何かしてたっけ?」


 約束と聞いても全く何も思い出せなかった俺はそう聞き返した。


「そっか、覚えてないんだ。でも大丈夫、その約束は多分叶う事になると思うから……だって夏海ちゃんがいるって事は将来結婚しようって約束が未来ではちゃんと叶ったって意味になるもんね」


 後半は何を言っているか声が小さ過ぎて全く聞こえなかったが、ニコニコしているところを見ると俺が思い出せなかった約束はよっぽど良いものだったのだろう。

 それが多分だが叶うかもしれないとなると嬉しいに違いない。

 そんな事を考えているうちに保健室へと到着したため、そこで応急処置を受けるのだった。

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