ミーコ、仕事をする

かほん

第1話

 年度末は本当に忙しい。僕は会社をやっているので、青色申告するためにここの所ずーとエクセルと睨めっこだ。

 まあ会社と言っても小さいデザイン事務所で僕の他には従業員が2人、パートの吉沢さんと正社員である僕の妻だけだ。妻はデザイナー、吉沢さんは進行やスケジュール管理が仕事だから。僕が事務仕事をするしかない。   

 だから本当に、猫の手も借りたいくらい忙しい。

 猫といえば、家には家族猫がいる。ミーコというキジトラの雌猫だ。僕も妻も家族だと思って大事にしている。年齢はまだ2歳、猫の歳に直すと何歳くらいになるんだろう、30歳くらいかな。遊びたい盛りのヤンチャ猫だ。

 今日は僕も妻も出社しているため、ミーコを構ってやれない。というか、そんな時間はない。

「そろそろ帰ってあげたら良いんじゃないですか?ミーコ寂しがりません?それに餌をやらなければならないだろうし」

う、正論すぎて何もいえない。吉沢さんは何時もナチュラルに厳しい。しかしここで帰るわけには--。

「あなた、私はここで仕事しているから、帰ってミーコの相手をしていてあげてよ」

あなたは帰っても仕事できるでしょ、とは妻の弁。

仕方ない帰る事にしよう。

 僕が玄関の扉を開けると、ミーコが待っていた。こういうところ、可愛いんだよなぁ。

 抱き上げてすりすりする。猫の体って犬みたいな動物臭がほとんどしないんだよなぁ。天日に干した布団のような匂いがする。

 ミーコを下ろすと、リビングに行って餌皿にカリカリを入れる。

 家はずっとカリカリ派だ。缶詰はやらない。というか、この間缶詰をあげたら、全く見向きもしないから、それから缶詰を開けていない。

「さてと、仕事の続きをしなけりゃな」

といってノートパソコンを開いて、仕事をしようとすると、ミーコは僕の両手に乗る。僕の手は、キーボードとミーコにサンドイッチにされた。

 「ミーコね、ちょっと仕事するから」

と言ってテーブルから下ろす。

 またミーコが乗る。また下ろす。またミーコが乗る。また下ろす。

 これを十回くらい繰り返かえした後、やっとミーコが離れてくれた。

 訂正。ミーコは遊んで欲しいようだった。

ミーコのお気に入りのネズミのおもちゃ、咥えて持ってきた。

 はいはい、わかりましたよ、其れ投げて遊べば良いんでしょ。僕は10分だけ相手をしてやる事にした。

 税務署に提出する書類が結構あるあらな。仕事はやらないと。

ミーコはおもちゃを投げてあげると、それをジャンピングキャッチするのが得意だ。小さい頃はおもちゃを追っかけて、拾ってくるだけだったのだが、いつの間にか高等技術を身につけていた。

 一メートルくらいジャンプして取る姿を思わず動画で撮影してしまったほどだ。

 すごいすごい、と知人友人に見せまくったら、

「おまえ、親バカならぬ猫バカだな」

と言われてしまった。

 しばらくおもちゃを放って遊んでいたが、僕が飽きてきたので、鞄からレーザーポインタをとりだした。レーザーポインタを床にむけて、赤い光点をチョロチョロ、と動かすともう、猫大興奮である。床の赤い物を追っかけて取ろうとする。でも光だからダメなんだなぁ。

 動かすたびに赤い物に反応する。楽しい。注意しなればならないのは、ミーコの目に直接レーザー光が入らないようにしなければならないことだ。やってしまうと、ミーコの目が失明してしまう--かもしれない。

 そうやってしばらく遊んで、ふと時計を見ると、1時間以上遊んでいる。こりゃまずい、

と思って椅子に座って仕事を再開した。

 ミーコはしばらく僕の足元をうろうろしていたが、そのうち僕の膝の上に飛び乗った。

 ぐるぐる回って足の間に落ち着ける空間を見つけるとそのまま寝る体勢に入ってしまた。

「くるるる、すん、くるるる、すん」

と鳴きながら、時々手で顔を拭いている。あー。撫でろってことね、とミーコの頭と首を撫でてやる。

 そんなことをやっていると、ミーコが膝の上で眠り始めた。起こすには忍びないし、仕事の邪魔はしてないし。と思ったのでそのまま仕事をした。

 暫くすると、妻が帰っていた。

「ただいま」

「おかえり」

「もしかして、あなたずっと仕事していたの?」

「いや、一時間くらいミーコと遊んだよ」

「ミーコは?」

「僕の膝の上。もう2時間くらい寝てる」

そろそろトイレに行きたくなってる。でもミーコを起こしたくないので動けない。

「ああ、お気に入りの場所かぁ。よかったねミーコに遊んでもらって」

「ええ?僕が遊んで貰ったのかい」

「ちょっとはストレス解消になったでしょう」

「まぁそうだけど」

「まだ仕事続けるの」

「うーん、今日は一区切りついたからもう終わるよ」

それが良いわね、と妻が言って、夕食の準備を始めた。

 キッチンからの香りから今日は鍋らしい。香りが鼻腔をつく。

 と膝の上で眠っていたミーコが目を覚まし、キッチンに行った。

「そっちにミーコが行ったよ」

「はいはい、だめよ、ミーコ危ないから」

ミーコはキッチンから追い出され、「なーん」と鳴いた。

 鍋も食べて眠くなってきたので、そろそろ、寝る支度を、と思ってベッドにうつ伏せになって本を読んでいたら、ミーコが入ってきて僕の背中の上で箱座りした。

 普段は妻の方に行くのに、今日は珍しいな、と思っていたら、僕の背中を揉み出した。僕は肩から背にかけて酷い凝り性なので、ミーコに揉まれるのは気持ちいい。

ミーコも安心してきたのか、「くるるる、くるるる」と鳴き出した。

 すると、背中に刺すような痛みを感じ始め、

「いたたたた。こらミーコ」

と跳ね起きた瞬間にミーコを捕まえた。

 ミーコの爪を見てみると、長く鋭い爪が生えていた。

「これ、爪切らないとダメだなぁ」

とぼやいたが、ちょっと考えて

「ま、明日でいいか」

と言った。今日はミーコにたくさん遊んでもらったから。ミーコの嫌がることはしたく無かった。


「ミーコ、おやすみ」

と言って電気を消した。

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