百合と向日葵.2

 百合には仲の良い友人がいた。ショートヘアでボーイッシュな、勉学よりはスポーツが得意な彼女。特に体育の授業では、並の男子より活躍する程で、クラスメイトからは一目置かれている存在だった。…彼女の年齢にしては、“たわわ”な胸、その陽に焼けた肌に流れる汗、それを見ているだけの輩も多いだろう。かくいう私もその仲の一人。兎に角、彼女には魅力があった。名前を…向日葵と呼ぼうか。彼女には太陽のような花が相応しい。


 私と百合と向日葵には共通点があった。彼女もアニメや漫画が好きだったのだ。昨日のアニメがどうだっただの、あの漫画の最新刊がどうだっただのと、えらく盛り上がった休み時間も多かった。休みの日には向日葵の家に集まって一緒にDVDを見ることもあった。私が向日葵と遊ぶのが嫌じゃないのかと百合に問えば、浮気だの嫉妬だのなんて物は毛ほども心配しておらず、寧ろ仲良くしているのが嬉しいと彼女は喜んでいた。中学生の恋愛とはその程度の物なのだろう。


 ただ私には、向日葵との関係がこれで終わるとは思えなかった。彼女の私に対する言動や仕草に違和感を覚えていたのだ。特に目につくのはスキンシップだった。彼女はボディタッチが多く、頬を指先で突く悪戯や、急に後ろから脇腹をくすぐる、なんて事がよくあった。当時はふざけているのかな?とも思ったものだが、私以外の男子にはそうかと言われれば違く、寧ろ彼女が他の男子と遊んでいるところは見たことがない。他にも、彼女とよく目が合ったり、なんてのもそうだ。授業中にふと目をやると、やはり彼女も私を見ている。そんなのを何度も繰り返すが、休み時間になると“けろっと”していつも通りだ。そんな向日葵との関係がもどかしかった。


 予感は的中するものだ。私が百合と口論をして距離を置いている時に、相談に乗ってくれた彼女だが、どうしようと悩む私に「それなら、私と付き合えばいいのに…」と呟いた。驚いた。まさか彼女から告白めいたものをされるとは思ってもみなかった。私たちの関係を知った上で悩み、彼女の底から出た言葉だろう。声には力がなく震えていた。


 あろう事か、私はその言葉に揺らいでしまったのだ。口論していたせいもあるのだが、大人しく華奢な百合とは反面、活発で肉付きの良い彼女のことで頭がいっぱいになった。だが私も百合の恋人だ。「ごめん、僕には百合がいるから。」と。「もし百合と別れたら向日葵と付き合ってもいいよ」と。今でいうキープだが、当時はそんな概念も、これが彼女にとって残酷であることも知らなかった。


 人は恋愛をすると輝くだろう。ただまた、その輝きに魅了される者も少なくはない。当たり前だが、恋愛とは他を切り捨てる潔白さ、誠実さが必要なのだ。私にはそれが理解できなかった。その時々で居心地がいい相手がいれば寄り添えばいいじゃないか。特定の一人を恋人に決めてしまえば、それはある意味での自分に課された縛りであり、本来恋愛で感じる幸せだとかなんて、真実ではない上辺のものだと悲観してしまう。今あるそのような私の考え方は、恐らくこの当時に植え付けられたのだろう。その頃は分からなかったが、今思い出せば、私は元より芯がない男だったのである。


 私は百合との交際を続けながら、向日葵の優しさに漬け込むのだ。

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黒桔梗 夕凪夕 @yunagi_yu

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