第40話 業務


 俺とAは買い物を済ませて宿舎に向う。


 途中Aが再び『ブレイブ』をかけ直していたため支援魔法の持続時間ついて聞いておいたが状況により違うらしく「気配で感じるんだ」という『ありがたいお言葉』を頂いた。


 ゲームなら決まった時間経過でかけ直しが必要になるが、現実はそういものではないらしい。


 具体的なタイミングがわからないということ支援魔法を掛け直すタイミングの難易度があがりそうだ。


 極端な例をあげるとAが戦闘中のここぞという場面で『ブレイブ』が切れた場合、死活問題に陥る可能性もあるかもしれない。


 俺が支援魔法を使えなくても、そういう事にならないよう注意して見ることができれば今後の役に立てるかもしれないと思って疑問はその都度Aに聞いていた。


 本当にAには感謝だ。なんだかんだと俺の質問にしっかり返答してくれるあたり、世話焼きな教育係としてよくやっている気がする。俺がサラリーマンをしていた頃は教えてもらうためにはサービス残業は必須だし、ぶっつけ本番もよくある事だった。


 Aとのまじめな会話は途切れることなく、宿舎に到着した。


師匠マスターこれはどこに持っていけば?」

「食堂のテーブルに置いてきてくれ、私は外で待っている」

「わかりました」


 食堂には誰もおらず、食料の入ったカゴを指示通りテーブルに置いてAに報告しに戻る。


「誰もいませんでしたけど、棚とかにしまわなくて良かったんすでか?」

「気にするな、教会の者は皆それぞれの役割があるからな。私達には私達の役割がある」

師匠マスターの役割って何でしたっけ?」

「言わなかったか?

 教会の安全確保と、異端者の審問だ」

「い、異端者の審問?

 審問するなんて話は聞いてませんよ」


 物騒極まりない…しかし審問などは若い娘にさせることか?


「そうだったか、ならば今から説明しておく。

 私とOとEの三姉妹は私をリーダーとした異端審問官のパーティーでもあるんだ」


 Aは腕を組みながら薄い胸を張って答える。

 たぶん誇らしい事なのだろうが、なんだかちょっとこう、寂しい気持ちになるな。


 俺の複雑な微笑みを感じたらしく、Aから「どうした?」と問われてしまう。


「いえ、なんでもありません。それより私は異端審問官という職に馴染みがないのですが、たぶん凄い役職なんですよね?

 それは聖女様から任命されるんですか?」

「そうだ、独立して自由に行動できるという権限も与えられている役職だ」

「3人はそこまで信頼されていると…」

「そういうことだ」


 これは大丈夫なのか?

 EはともかくAがリーダーとか不安極まりないし、Oは若すぎて問題ありだと思うのだが…。


「…なるほど」


 いや、ここは異世界だ、俺の常識は通用しないものと考えるべきだな。もっと他の事を聞くべきだろう。


「それでは、異端審問官の奉公人という俺も特殊な奉公人扱いになりますか?」

「いや、そこについては普通の奉公人扱いだ。

 奉公人には異端審問をする権限もない、だから特に気負う必要もないぞ?

 今は修業にのみ集中していれば良いだろう」


 特別な仕事を任せれるわけではないようだ。

 それならまぁ、安心か。


「はい、わかりました。

 ちなみに異端者ってそんなにいるんですか?」

「いないな、聖女様を敵に回すという事はベルフェ様を敵にするようなものだからな」 

「奉公人の状態で逃げたら異端者扱いって言ってましたけど、そちらのほうは?」

「逃げる奉公人などそうはいない、逃げるならそもそも奉公人になっていないだろう」

「確かに…」


 半端な気持ちなら奉公人になる試験ではじかれるはずだ。


 上司が不穏な役職についている。その事実から目を背けるためにひとまず俺はこのあとりで納得する理由を見つけておく。


「もう質問は良いか?」

「大丈夫です、ありがとうございます」

「良し、なら次は見廻りだ。これを持て」


 Aはいつの間にか腰に吊していた剣帯から黒い棒のような物を俺に差し出した。


「これは?」

鉄鞭てつべんという武器だ、これを持ちながら私について走れ」


 長さは90センチ程だろうか、鉄というだけあってかなり重い。2キロの鉄アレイを筋トレ用に持っていたがそれよりも重いんだが…嘘だろ?


「う…わかりました」

「良し、しっかり付いてこい」


 そう言うとAは俺の倍程の長さの棒を持って颯爽さっそうと走り始めた。


 こんな物を持って走ってたらそりゃ手の皮も厚くなるな…。


 重い鉄鞭のバランス取りに悩みながら俺はひたすらAの後を追って走った。

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