第39話 神託

『ええ!?ベルフェ様と交信?

 こ、これは夢ですか?』


『いいえ、現実です。

 さっきお花をくれましたよね?そのおかげです』


『その反応、ま、まさしくベルフェ様!?

 つ、つまり、その、神隠しの時のように供物の力で今も奇跡を起こしてるんですか?』


『そうです、これは神託というものですね』


『そ、それなら誰でもベルフェ様と話せるのですね!』


『誰でもではありません、私が神託する事を選ばなければ通じませんから』


『な、なるほど…ではあとどのくらい話せます?』


『お花の力ですから、残念ですがそろそろ…』


『そ、それでは俺の3つ覚えているというスキルに心当たりはありませんか』


『その事ですか、あなたの腕の治療をする際に私の魔力は全く残ってなかったので、あなたの恩寵を利用させてもらって1つのスキルを授けたのです』


『え、ええ?!

 何故そんな大事な事を黙ってたんですか!?』


『それは話す前に……』


 え、ベルフェ様?…ベルフェ様!?


 いやいやいや!?


  小銭が切れた公衆電話じゃないんだから!!


 し、しかしなんだ、今のダメな感じは間違いなくベルフェ様だ!!


 これは供物を用意して話を聞く必要が出てきた!


 出会うことや連絡する事がもうできないと思っていたから、これは本当に嬉しい…。


「BB、待たせたな」

「ええ!?」

「呼び捨てにするな!師匠マスターと呼べ!」

「うぐ……、ぁ、ありがとうございます」


 みぞおちに重い一発をもらい、一瞬息ができなくなったが気合でなんとか立て直す。


 ベルフェ様とののんきな会話のせいで、完全に油断していた。驚くことばかりだったので『ええ』を解禁してしまっていたのが仇になった。


「すみません、師匠マスターがこちらに来てくれるとは思ってなくて。以後気をつけます」

「分かれば良いんだ」


 Aは満足したのかうっすら笑みを浮かべている。


「それで、Fさんとの話はどうなりました?」

「特に何も分からずに終わってしまったよ」

「それは残念でしたね」

「そうでもない、分からないと言うことがハッキリしたこと、何らかのスキルを3つ覚えているという事が分かった事は前進している」


 何て前向きな姿勢なんだろう。


 物語の主人公となる勇者の姿をAに見た気がする。勇者として転送されてきた俺よりAの方が勇者っぽく思えてしまう。


 だが、勇者として呼ばれたのは俺だ。Aよりも勇者働きをしなくてはベルフェ様に申し訳ない気がする。より励まなければ。


「さすが師匠マスターです」

「なに、当然の事だ。

 それで次にこれからする事だが、当初の予定通り軽く街を巡回がてら案内する。これは今後の活動に必要な事だ、断じて私用では無い」

「はい、宜しくお願いします」

「よし、それでは付いてこい」


 俺はAの横に並んで歩くことを選んだ。


「覚えたようだな、褒美に手を繋いでやろうか?」

「な?!」

「はは、冗談だ」


 Aに冗談を言ってもらえる程にはどうやら打ち解けたらしい。あとは殴られさえしなければ文句も無いんだが―――。


◇◆◇


 Aとともに石門を抜け、広場中央にある馬の水飲み場を見るとシトロの姿があった。


 ん?

 シトロといえば、俺の下着をシトロが持っていったとかEが言ってなかったか?


 んん?

 そう言えば俺って今ノーパンだったな…シトロに事の真相を確かめて下着を返してもらわないと…。


 シトロに声を掛けようと思ったが複数の旅人らしき客を相手にしている。


「BB、こっちだ、行くぞ」

「は、はい師匠マスター


 俺はシトロに挨拶をするのを諦めてAに付いて行く。仕方ない、下着は後回しだ…。


□■□


 Aについて行って街の施設を覚えていく。


露店

宿屋兼酒場

斡旋所

解体屋

武器屋

防具屋

道具屋

豪邸

公衆トイレ

公衆浴場



 大まかな街の全体像が見えてくると、ところどころ先輩勇者の軌跡を感じた。

 だがそれより気になったのは案内中にAが住民達から挨拶される事が無く、むしろ遠巻きに見られたりしていて、どちらかといえば関わりを避けたいという警戒された視線を横にいても感じてた事だ。


 俺の勘違いかもしれないが、教会の評判が悪いのかA個人の評判が悪いのだろうと感じる空気だった。


 なんだかAも少し気分が落ちてきている気がする。こちらから話題を振るか。


「そう言えば師匠マスターは神託を受けたりしたことありますか?」 

「ん?神託か?

 私は無いな、ただ聖女様は受けた事があると言っていたのは覚えている」

「え、聖女様も?」

「も?」

 

 いかん、口が滑った。


「言い間違えました、聖女様が?でした。

 神託とは頻繁に行われるようなものなのですか?」

「そんな訳ないだろ?

 神様に認められた者でなければ受けれないと聞く。私も神託を受けてみたいものだ」


 良かった、特に気にならなかったみたいだ。

 しかしやはり、神託は万人が受けれる訳では無い無いんだな。


「なるほど」

「それよりどうだ?…楽しいか?」

「んん?まぁ、1人で回るより良く理解できて助かりますし、気になることも話せるので楽しいといえば楽しいですけど?それが何か?」

「いや、楽しければ良いんだ。疲れてないかと思ってな」

「このくらい余裕ですよ」


 足で稼ぐとは良く言ったもので、朝から晩まで外回りなど基本中の基本だったからな。


「それなら良かった」


 Aが自然な笑みを見せた。

 時折見せる年相応の笑顔がもっと多くの人に知れれば人気も出るだろうにな、と余計なことをつい考えてしまう。


「次はどうします?」

「そうだな、ちょっと露店に寄ってから帰るか」

「了解です」


◇◆◇


「これとこれをもらおう」

「はいよ」


 俺達は露店で買い物をしていた。

 店主はAに言われたものを植物のツルでできたかごに入れながら声をかけてきた。


「ところで赤の神官様、そちらの男性は新しい神官様ですか?」

「いや、私の奉公人だ」

「奉公人!?」

「そうだ」

「そ、それはおめでとうございます」

「ありがとう」


 ん?なんだこの反応。


「この商品は祝いの品として無料でお渡しします」

「そうか?悪いな」

「奉公人の方、今後とも宜しくお願いします」

「あ、はい、宜しくお願いします」


□■□


「何だったんでしょうね?」と奉公人の男が赤の神官に話しかけているのを見送ってから男は駆け出した。


「おおーい!赤の神官様に奉公人ができたぞ!!」


「なんだと!」

「あいつがそうだったのか!」

「良かった!」

「これで安心して街を歩ける!」


他の露店店主と一般人らは話を聴くとそれぞれが吹聴ふいちょうして回り、赤の神官に奉公人ができたというのはあっという間に知れ渡った。


「これで街の者が奉公人として狙われることがなくなったぞ!」

「良かった!本当に良かった!」


 この日、各家庭では街の平和が守られたとちょっとした祝いの席が設けられたのだった―――。

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