第37話 神眼

 Aを追いかけるようにして教会へ戻る途中でマーザと他のシスター、孤児達とすれ違う。


 初めて見かける人が多く、てっきり挨拶できるものかと思っていたら「BB、早くしろ」というAの声にかされ会釈えしゃくだけで済ませてしまった。


 同じ場所に住んでいても会社のように部署が違えば全く関係を持たないというよう感じになるのだろうか?


師匠マスター、そんなに急がなくても」

「何事も早い方が良い」

「何か用事があるんですか?」

「そういう事ではない、何事にも対処できるように常に余裕を持つ必要がある」

「なるほど?」


 うなずいておいたが、普段の余裕を無くしてまで作る余裕とはブラックな考え方だと思ってしまう。


「神官長!いますか!」


 聖堂へズカズカ入って行くAに俺も続いた。

 先程までここにAといた事もあり何だか良からぬ事を考えてしまいそうだ。いかんいかん。


「おや、いつものAに戻ったようですね」


 祭壇の前にFは立っており、本らしきものを閉じながら応じる。


「しんぱ―――」

「そんな事より『神眼』でBBを見てもらえませんか?『魔石』と『魔力操作』については軽く教えたので次の段階に進もうと思います」


 Aは目上であるはずのFでも食い気味に話を通す。


『神眼』による『神技』スキルの発覚は避けたいが、この勢いのAを拒否することはできないだろう。


「はは、それだけ元気なら大丈夫ですね。わかりました『神眼』を行いましょう。BBさん、両手を出して貰えますか」

「はい」


 俺はFの言葉に従い両手を差し出すと両手を掴まれる。Aの手を硬いと思ったが、Fの手はそれ以上に硬くまるで岩のようだった。


「A、忘れずに書き留める様に」

「大丈夫です、私ですよ?」


 Fは目で笑うと「だから心配なんですけどね」とAに聞こえないように呟いていた。余裕のある見た目をしていても結構な気苦労を重ねていそうだな。


「さて、少し驚くかもしれませんが手を離さずにいて下さいね」

「わかりました」


 Fに同情を覚えつつ仕方なく成り行きに身を任せる。


 Fは目をつむると落ち着いた声で詠唱を始めた。


「万物の創造主ベルフェよ、この者の力を見透す『神眼』の力を我に貸し与え給え」


 Fは詠唱を終えると同時に両目を開いた。

 瞳は黄金に輝き全てを見透かされているような感じがする。


 しかし、どこかで見たことがあるような?


 何だったかと考えを巡らせていると両手から全身に寒気が走る。


「ヒッ」


 思わず変な声が漏れる。


「あはは!やっぱりなるよね」


 何故かAに笑われる。

 しかし見たことがない無邪気な笑い方だな。


「A、真面目に。今から読み上げますよ」

「用意はできています」


 Aは真面目な顔に戻るとおそらくFが持っていた本に羽ペンを向ける。


「BB、男、ヒューマン、魔法未修得、スキルは―――」


 Fが言葉を紡ぐ度にAはペンを走らせる。俺は身体の中を覗かれるようなヌルリとした気持ち悪さを感じるが、Fはすぐ言葉に詰まった。


「神官長、スキルはありませんか?

 BBの国では魔法が無いというので何か特殊なものがあるかと思いましたが」


 Fの次の言葉が我慢できないAを見ているとこれが本来の年相応の姿のなのではないかと思えてくる。


「スキルを3つ覚えている事は分かるのですが…」


 ヤバイな。

 ベルフェ様より授かった特別なスキルがバレただろうか。しかし3つ?俺が覚えているのは――


―――――――――――――

神の恩寵▶共通言語

     取得経験値増加

     能力限界値突破

     オーバースキル


会得スキル▶神技 解毒

      神技 状態固定

―――――――――――――


 全部で6スキルだと思っていたが『神眼』で感知されたのは3つだという。


 考えられるのは恩寵はスキルではないという事か?ならば知らない間にスキルを会得している?


 いや、それはおかしい。スキルを会得すれば解毒を会得した時のように頭に響いてくるはずだ…。


 知らない間に何を会得しているんだ?


「神官長!早く教えてください!」

「それがですね…二人には申し訳ないのですが、おそらく私の力量不足のためにその3つのスキルが何なのか判別できません、出身国が違うためかもしれませんがハッキリと認識できないのです。BBさんは3つのスキルに何か心当たりはないですか?」

「すみません、スキルや魔法というものがあるという事をこちらに来て初めて知ったので…」

「そうですか…」

「神官長!何系かも分からないんですか?」

「そうですね、推測ですが攻撃系のスキルでは無いと思います、波長がそういう尖ったものではなかったので」


 Aはスキルが余程気になるようでFに推測を並べ立てて話している。


 俺はスキルがバレなかった事にひとまずの安堵を覚えたが、いつの間にか覚えていたスキルが何なのかで頭が一杯になった。


 ベルフェ様!

 何で簡単にステータスが分かる世界じゃないんですか!

 いつか必ず問い詰めてやる!と心に誓った。

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