第36話 再認識
「BB、一体それはどうやって完治したのだ?」
俺はAから返事に困る質問を受けた。
魔法による回復だと傷跡が残る事無く治癒できるらしく、俺の傷跡は魔法で完治したものでは無いというのだ。
この傷跡はベルフェ様に治してもらった。
何らかの理由があって魔法での治療でないなら、おそらく『神技』である『状態固定』が治療に関係してくると思われる。
とはいえ正直にベルフェ様に治して貰ったと言うわけにもいかない。言えば絶対に話がこじれるし、他の勇者がどのような存在で通っているかで世間から見られる目も変わる可能性がある。
他の勇者に俺の存在を知られるのも今のところ避けたいので、勇者である事を誰かに打ち明けるつもりも無かった。
「情けないことに腕が切られてすぐ気絶しまして。目覚めた時には治療されたあとでした…」
「…」
Aは難しい顔をしている、こんな答えは求めていないだろう。
何かそれっぽい答えはないだろうか?
「その、たとえばですが、回復魔法を使用したけど魔力が先に尽きて完治しない場合はどうなるんですか?」
「それは回復魔法を知らないから出てくる考え方だな。完治しきらない回復魔法は回復魔法として発現する事は無いんだ」
「んん?」
「回復魔法が使用できる場合はその傷が完治する時に限るという事だ、中途半端に回復するなんてことは無い」
「なんと…」
「だからその傷跡を見て魔法では無い特別な力か薬があるのでは無いかと思ってな。私の回復魔法で対処できない致命傷を治せる術があるならそれを知ることで私は更に人々の役に立てるはずだ」
なんだかまともな事を言っているように聞こえる。Aが人々の役に立つために力を得ようとしているという姿は、少なくともこれまでのAのイメージからは思いつかなかった。
しかしAの真剣な眼差しを見ていると粗暴や暴力という目立った姿の裏にある、強くなりたいという動機が垣間見えた気がする。
もっと話を聞いてみよう。
「
「まずは止血だな」
「止血!?」
「なにかおかしいか?」
「い、いえ、すぐに魔法をかけるものかと」
「切断されてない場合はそれで間違いないが、切断されると話が全く変わってくるんだ。治療に必要な魔力が一気に増える。
残念ながら私には腕を繋げる程の魔力は無い。
となると、まずは止血をして時間をかけて回復魔法をかける事になる。瞬時に治せないため、肉体は切断された事を記憶して二度と繋がることはなくなり、切断面は新たな肉が再生され血を止める事になる。ただ、指くらいの細さなら私でも繋げられる可能性はある」
「な!?指ならくっつくんですか!?」
「すぐ対処した場合に限ってだがな。それも子供の指くらい細ければの話しだ」
本当に怪我はできる限りしたくないな…。
「えぐられた傷などは重傷でもわりと完治するものだが、切断されると一気に魔法が効きにくくなる。 これは重要な事だ、覚えておけ」
「は、はい!」
良くあるヒーロー漫画みたいに傷を負っても回復魔法でなんとかなる!みたいな認識では生きていけない事を理解する。
「良し、ではまず最初に行く所が決まったな。教会へ戻るぞ」
「あれ?街へ行かないですか?」
「BBのスキルに何か傷の手掛かりがあるかも知れないと思ってな。まずはBBの保有スキルを調べよう。保有スキルによって今後どういった訓練をするか決めても良いな」
方針が決まったとばかりにAの顔はにこやかになる一方で俺の顔は曇った。
スキルを調べる方法はおそらくEの言っていた『神眼』だろう。もしかすると『神技』がバレるのではないだろうか?
「どうした?そんな顔をして」
「いえ、
悩みを悟られたくないので特に意識することなく事実をのべる。
「な!?そ、そうか、そんなに私と街へ行きたかったか、し、仕方が無いやつだ」
あれ…なんだか違う意味でとられたような…。
「と、とにかくまずは教会だ!行くぞ!」
頬を赤く染めているAの後を俺は複雑な気持ちで追った。
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