第33話 魔法講義 後編
「それでは魔石につて説明する、さっき渡した魔石を出してみろ」
俺は握られていない左手でズボンのポケットから魔石を取り出しAに手渡す。Aも握っていない左手で魔石を受け取った。
ここまで長時間握られるとは思っておらず、いいかげん手汗が出るんじゃないかと不安でヒヤヒヤしている。
「魔法の本質は魔力操作にあると教えたのは覚えているな?」
Aは親指と人差し指で魔石をつまんで魔石の面を見せてきた。魔石の向こうにはAが凛とした表情でこちらを見ている。
…どうにも正面から向かい合うというのは視線の逃げ場が無くて困る。
「大丈夫です」
「良し、では次だ。魔石は魔物の核から作られる魔導具で、魔力を溜め込む事ができる」
電池のようなものだろうか。しかし、あのカエル親子が仕留めたスライムの核が魔石になるんだな。どうりであんなに高く売れたわけだ。
「そして魔力は溜め込まれる際に核の性質にあった属性に変換される」
…ふむ?
「変換された魔力を魔石から出力する場合、その属性にあった魔力操作でしか出力できないが、魔石を壊すと人が戦死した時のようにただの魔力として溢れ出てくる」
「あの、すみません。それって魔石を使うなら属性魔法を扱う『魔法使い』じゃないと無理って事になりますよね」
「その通りだ、『神聖魔法』と『七大魔法』は出力の仕方が逆だからな、事故の原因になりえる」
「…」
俺の知る限り、
「ふふ、渋い顔をしているな」
「いや、水属性の魔石と聞きましたから、魔法すら覚えてない俺には使えないなと思いまして…」
Aはニヤリと声を出さずに笑う。
「普通ならそうだ、しかしこの魔石にはちょっとした仕掛けがしてある、良く見てみろ」
「仕掛けですか?」
500円サイズの青石は宝石というような輝きはなく、どちらかというとマットな質感だ。さっき受け取った時にもたんに石だなと思って受け取ったくらい普通に石だ。
…ん?あれ?Aの腕から光の粒が魔石に集まっていく?
「
「私の魔力を流している、それも見えているか?」
「は、はい、腕から光が流れていくのが見えます。それで
「これは魔力操作を補助するもので『ルーン文字』というものだ」
ルーン文字だと!?
俺のルーン文字の知識はRPGゲームに出てきたというくらいの浅いものだが、それが異世界にもあるとは考えにくい。
つまりこの技術も先輩勇者の方々が普及させた可能性が高いのではないか?
今は話の腰をおるので由来については聞けないが、後程このあたりの話も更に詳しく聞きたいところだ。
「その、ルーン文字があるとどうなるんですか?」
「そうだな、そのまま魔力の流れを良く見ていろ」
Aは大きく口を開けると今にも魔石を飲み込むような格好をする。俺が執事なら「お嬢様!なんとはしたない!」などと注意せねばと思うくらいの大口だ。残念ながら俺はただの奉公人なので出かかった言葉を飲み込んでおく。
そんな事を考えている俺を気にする事無くAは繋いでいる手を軽く引っぱり注意を促してくる。
いかん、集中が切れていたのがバレていたか…集中せねば。
魔力の流れが腕から魔石に届き、魔石が白い光に包まれてゆく。
「ぉ…光ってますね」
俺の言葉を待っていたかの様に、白い光の中から透明の液体が流れ出てくる。
Aの開かれた口に流れていくそれをAはゴクゴクと飲み干していった。
「ま、まさか!水!?」
「…ああ、そういう事だ」
口元を腕で拭いながらAは笑う。
「そ、そんな馬鹿な…これはどういう?!
「ああ、私には使えない。だがそれを一部のみ使えるようになるのがこの魔石なのだ」
「…し、しかし、七大魔法を使えないのにどうやって魔力の流れを理解してるんです?」
これは一体どいう理屈で使用できているんだ?
「理解する必要は無いんだ、水を出すイメージで魔力を送ればそれで良い。刻まれたルーンが魔力を受けて処理してくれる。それがルーン文字だ」
「そ、そんな…」
こんな便利な物があるなら山ほど欲しくなるぞ…それに奪い合いになるんじゃ…。
「これは誰でも作れるんですか?」
「一般的にルーン文字は知られていないが、教会は写本を有していてな、私もそれを見ながら刻み込んだのだ」
「な、なんと…」
誇らしげに話をするAは何だか楽しそうだ。
俺の反応がいちいち面白いのかもしれないが。
「仮に魔法を覚えていなくても、魔力操作さえできれば魔石は使用可能だ。試して見るか」
「ぜ、是非」
俺の右手は水分なのか興奮による体温上昇のせいなのか、湿り気を感じはじめていた。
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