第32話 魔法講義 前編

 Aと手を重ね合わせ魔力の流れに集中する。


「さっきの勇敢ブレイブは体内に存在する魔力を操る術を利用して唱えたが、今から体外の魔力を操る術を見せる」

「体外ですか?」

「魔力操作は特別な力だが魔力自体は特別なものではないんだ。目を瞑っていろ、見えてくるはずだ」


 手を差し出している辺りに周囲から小さな光の粒がゆっくり集まってきた。まるで磁石に引き寄せられる砂鉄の様だ。


「何だか随分と弱々しいですね」

「この辺りに溜まっている魔力を集めているところだが、まぁこんなとこだろう。魔力は生物だけでなく植物や鉱石にも宿るんだ、その魔力を私の魔力を消費して引き寄せているところだ」

「んん?体内の魔力を消費して体外の魔力を集めるという事ですか?」

「そうだ、体外の魔力が少なければ効率は悪い術だな」

「魔力が溜まるというのがちょっと想像しにくいんですけど、その辺に溜まるもんなんですか?」

「雨が降れば水溜まりができるだろ?あんな感じで魔力にも溜まる場所と溜まらない場所があるんだ」

「溜まっている場所はどうやって見つけるんですか?」 

「目を瞑っている間に魔力が見えてきただろう?魔力操作に慣れてくると目を開けていても見えるようになるからすぐに気付くようになる」


「なるほど、そんなもんなんですね」

「今まで魔力の存在を感じた事が無ければそんな風に違和感も湧くだろうがじきに慣れる。しかし、この辺りは魔法を使える程の魔力は集まらないな。集めるのをやめるぞ」


 砂粒から小石程に集まっていた魔力の光が砂粒サイズに戻り、周囲に浮遊しながら散らばっていく。


「集めた魔力の粒?って消えないんですね」

「そうだな、魔法を発現する糧にされて消えるか、何かに吸収されたりすると消える感じだ。これらもそのうち植物にでも吸収されるだろう。良し、ひとまず目を開けて良いぞ」


 目を開けるとまだ手を握られていたが、Aの表情は相変わらずの仏頂面だった。


 …後輩よ、これはどんな親密度にカウントされるんだ?


 Aとの親密度も気になるが、とりあえず疑問を質問しておくか。


「魔力が溜まっている場所では身体に影響は無いんですか?何となく気持ち悪くなりそうなイメージがわきますけど」

「人の身体への影響は聞いた事が無いな、魔力溜まりで成長した植物は魔力の影響のせいか巨大化したり人を襲う化け物になったりもするが」

「な!?ば!?化け物に!?」

「…っぷ、あははは」


 俺の反応にAは笑いながら応える。え、笑うとこ?


「悪い、笑うつもりは無かった。驚いた顔が面白かっただけだ」


 残念ながらイケオジには程遠いらしい。


「別にいいですけど…、化け物になるって本当なんですか?」

「変化した瞬間を見た事は無いが、遭遇したという話は聞いた事がある。かなりまれな事だがな。魔力が溜まりがちなのは戦場だが、溜まっている魔力も奪い合いになってすぐに魔法として発現される。普通に生活してれば魔力溜まりを見かける事はまず無いだろうな」

「戦場に溜まる?もしかしてそれって…」

「察しが良いじゃないか。そうだ、人が死ぬと宿している魔力が抜け出て魔力溜まりができるわけだ。そこで体外の魔力操作も重要になってくる」

「魔力溜まりを制した者が勝利を勝ち取ると」

「簡単な事ではないがな。強大な魔法を唱えられないためにも戦場に散った魔力は魔術師が奪い合いをするんだ」

「魔術師?祈祷師や魔法使いとは何か違うんですか?」

「魔術師は体外の魔力操作にた者の事だ。

魔法陣を敷いて効率的に魔力を集めたり、生贄いけにえから取り出した魔力を魔法へ変換したりする。まあ生贄を消費して魔法を使うのは容易い。魔力を扱える者なら誰でもできるだろう」  

「うーん?魔術師は魔法使いがなるんですか?それとも祈祷師?」

「魔法陣を使える者を総じて魔術師と呼ぶ。魔法使いでも祈祷師でもどちらでもな」

「なんだか不便じゃないですかそれ、どちらの魔法が使えるか分らないじゃないですか」

「一応、魔法術師、祈祷述師という呼び名はあるが敵の魔術師がどちらの魔法を使えるかまでは分からないから、魔術師と一括りにされる事が多い」

「うーん、ややこしいですね。生贄はどういう感じですか?」

「魔力を宿している動物やモンスター、罪人が利用される事が多いな」

「生々しいですね…」


 顔をしかめながらAを見るがAはやはり表情を変えない。常識的な話だからなのか、勇敢のせいで感情がバグっているのか分らないのが悩ましい。


「そんなもんだ、それで体外の魔力操作の重要性は理解したか?」

「なんとなくですが」

「良し、あとは慣れるだけだな。そろそろ魔石について説明しよう」

「お願いします」



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